立ち漕ぎ(1/2)




今日も能天気な王様は、机いっぱいに菓子袋を広げていた。

「食べるヤツー!」
クラスメイトがわいわい集まる先には、王様と激辛キムチ味のポテチ。思わず腹の虫が鳴って、振り返った王様が笑う。
「食う?」
無視に限る。この席を立つのも、独りにももうすっかり慣れたから。


「なんでかなー、アイツ…」
発の呟きが、誰かに届くことはない。

昨日のファミレスだって、たまたま入ったらそこに天化がいた。下調べしてからかうなんて子供じみたことをする自分じゃない。なにか誤解されている。
いつもいつも、食堂にも購買にも現れない…屋上に独りで消える姿が気に食わない。腹が立つ。
この世の終わりを見たような顔に、腹が立つ。大体なんだ、"なにが目的"だなんて。
意味がわからない。そこまで人が悪く見えるのか?
たまたま夜遊びの帰り道に、たまたま天化がいた。だから話しかけた。それだけで意味はない。
たまたま屋上で合った。
秘密って程でもない秘密を知り合ったのは、お互いさま。
たまたま同じ教室で、たまたま出席番号が8と9で、たまたま身長が近かった。
それだけで、……構えば構うほど、その影が風のように遠のく。

それが死ぬ程腹立たしい。

「くそっ!」
きっとアイツは今頃屋上ですきっ腹に煙草ふかしてる。似合いもしない癖に、真面目ぶってる癖に不良ぶってる。似合わない。白い歯がヤニに染まっていく姿なんて、見たくない。
興味がないんじゃない。そんな姿を見たくない。理由なんてない。腹が立つ。それだけで。
「荒れてんなぁ、発ちゃん」
「どーしたよ?」
周りを囲む友人の顔が、楽しいのによくわからない。

「"王サマ"には関係ねーさ!」

リフレインするその声に、大嫌いな卑屈になる自分が引きずり出される。嫌だ、嫌だ、嫌だ。
俺はお調子者の発ちゃんだ、そうだろう?王様じゃない。違う、……やめた。
考えるのは、どうも性に合わないから。

腹いっぱいに膨らんだポテチと重なる予鈴に、重なる後ろの席の椅子を引く音。やっぱり少しだけヤニ臭いそれは、馬鹿馬鹿しくて、腹立たしくて、少しだけ切なかった。

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