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闇夜の情動/R-18部分

それまで獰猛さを露わにしていた口許に、思わず白い歯を零して、発の鼻が鳴った。
「……なにがおかしいさ」
「いや、……かわいいなと思ってよ」
持て余した快感に竦み上がる肩を震わせながら睨み上げるこの少年が、あまくてあまくて仕方がない。砂糖まぶしにして頭から飲み込んでしまいたくなるようなこの情動を、発は名状出来ずにいる。

 否、名付ける術は持っている。だがそれをしたくない。それほどに脆く儚い、繊細な感情だった。

「可愛い。すっげぇかわいい」
相変わらず噛み合う気配はない価値観が、欲しいと思う。拗ねたように弱り果てる天化の幼い頬を鼻先でなぞる発はそう微笑んで、五指をきつく締め上げた。途端に呻く天化の八重歯が、発の右肩に強く食い込んだ。
言葉にならないのは今日何度目か、獲物に飛び掛かるしなやかな黒豹の如き緑の目が、酷く凝って発を睨む。抑え込んで憂いていた情欲が、禍々しく首をもたげた瞬間だった。
「王サっ、うぁ……!」
絹の繊維が引き裂けるむごたらしい音で天化に実感させる。噛み付いているのは発にだ、今己に触れたいるのはあの人だ、と。独りじゃない。己ではない。発が指に力を持たせて上下にすると、髪を振り乱した獣が吠える。すすり泣く赤子のような真っ赤な頬が闇に浮かび、蜜の粒が頬を転がる。
「……ぁっ、ぁ、ぁ……!」
必死に背に縋る指はいじらしい生娘の如き繊細な情で繋がって、触れる身体は雄々しい情欲に満ち満ちて、眉を寄せて抑えてなお溢れ落ちる声が、部屋の埃を舞い上げる。発の手を促す水音が漏れ出すと、天化は硬く目を瞑り、
「いやさ、嫌さ……っ」
そう前置きながら自ら荒々しく腰を寄せた。湧き上がる情動はどうにもならない。
「いつでも出していいぜ」
「――っ……!」
発の掌があつくて仕方がないと、天化の身体が泣いている。振り乱す厚い髪に埋もれた耳を探り当てると、発もたまらなかった。この夜が終わればまた髪とバンダナに覆われてしまうであろう、その柔らかい特別な生き物が愛らしくて堪らない。胸を打つ早鐘が止まらない。すぐさま唇で浚って猛る言葉を流し込み、何度も何度も、気の済むまで耳朶を食べる。熟れ、腫れた発の唇の粘膜が感じるあたたかな弾力が、なんともその胸を掻き立てる心地好さを持っているだなんて、肩を震わせる天化に伝わることはないのだろう。
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