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ディスコに寄せた身体……

王サマが消える。
見えなくなった残像に息を吐いたら、胸の辺りにぶつかって、こだまするため息が俺っちに返ってくる。汗の匂いが鼻先に弾けて、思わず強く目を閉じた。どうせ真っ暗な中で見える世界はなんも違いがねぇのに、胃をよじる4ビートが8ビートに、8ビートが16ビートに、王サマのブーツが器用に床を鳴らしてる。
音が王サマに寄り添って、──夕刻の女みたいに。ずきずき帰ってきた頭の不快感が、人波に揉まれる。ったく、嘘ばっか! どこが全館喫煙OKさ、吸う場所がねぇ癖に!

「てんか」

吐息もつく隙間がない。
「……っ、!」
人波が揺れて揺れて、王サマに反射する光の群れ。
瞼の裏の赤い血が透けて、視界が王サマの色になる。
俺っちの首もとに添えた手が左右に揺れて、お子さまが迷子になるから、なんて言っている声が、ふわふわ遠くへ揺らいで消える。耳の奥に巡る音が王サマの声を遮断して、心臓の音がうるさくなった。チカチカ変わるライトが落ちて、浮き彫りになる王サマの喉。
「天化? なぁ」
──まずい、と思ったのが遅かった。息が出来ねぇ、胸が苦しい。頭が割れる。
「っう」
「まずいな、人酔いしたか」
喉が耳元で上下する。

否定は出来なかった。なんで、なんで、
「──……ぁ……!!」
なんでさ!

俺っち絶対どうかしてるさ……!! 喰い縛った奥歯の隙間から声が漏れて、ジーンズの中で居心地が悪い。むずむず押し上げるそこに、カッと顔が熱くなって目を伏せた。  
なんで……。なんで、こんな!
身体中から汗が噴き出して、折れた左の膝の裏に汗の粒が溜まった。見えないし見てない、触れるはずもないのに、すぐにわかる。ジーンズの下がどんな状態か。どくどく心臓の音が走ってきて、息も走る。
「天化?」
「!」
硬くなったとこにファスナーの金具が冷たく吸い付いて、息を呑んだ。勃起、してる。なんで? なんでさ俺っち!  王サマの声がおろおろ困って、耳の横で膨張する。ふわふわ膨らむ声が、揺れる音の中に紛れて身体の中に流れてく。ちょうど鳴り響く音楽が豪速で耳を突き抜けて、瞼が震えてまた目を閉じる。くるしい、くすぐったい。頭が痛くてチリチリ焦れて、王サマの声が、
「おい」
耳の中に冷たい酒みてぇに低く流れ込んで息を飲んだ。摂りすぎたら帰れなくなる、あの酒みてぇに。
「なぁ」
おかしいさ! 俺っち……おかしいさ、そうとしか言い様がない。こんなんなっちまってるの、バレたら明日っからどの面下げて西岐城にいりゃらいいさ! 右膝が折れて、ブーツの掠れた音がした。その瞬間に花火の爆音に似た音が背中に迫って、方を掴んだ王サマの指の力が強くなる。ああもう!
「だ、大丈夫かよ?」
大丈夫じゃ、
「だいじょ、」
ない。
口が渇いて動かなかくなって、腰に力が入らねぇ……。どうしよう、どうしたらいいさ、どうしよう王サマ、
「王サマ」
どうしよう、王サマ、
「王サマっ……」
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