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まるいチョコレート?

「王サマ、これ……」
同時に転がり出す真紅の正方形の箱。九つに仕切られた方陣の中に、
「ちょこれいと……」
個性豊かな丸いボンボンが鎮座していた。
「おう、天化に。」
幼さを残す無骨な指が、白無垢のように重なる薄い紙と、飾れらる桃色の組紐に遊ばれて言葉を失くす。弾かれたように見上げる髪は、甘い香りと柑橘の香り。
「ちゃんと甘いぜ? それもとびっきりな」
こんな言葉の往復こそ好きなのだ。堪らない。胸の奥の甘く疼く寂しさのような幸せの、大抵を保有するのは発だった。見る間に頬を朱に染めた天化の唇に、唇が降ったのもすぐのこと。
「……っ……ん……」
舌と舌の、こんな往復は好きだ。少し冷めた唇と唇が、互いの体温に覚醒するとき。堪らなく安心して、わずかばかりの未知への畏怖を持って、酷く知りたくなる。横から抱き込むようにして天化を捕える腕は、いつだって甘ったれた感情を、乱暴に引っ張り出しては弄ぶ。

弄ぶ、その方法を、
「なぁ、はんぶんこしようぜ?」
「……けど、俺っちなんも持ってきてねぇし」
「だからさ」
知り尽くしているのは言わずもがな発だった。今更俯いて見せる天化に、フェイクの否定の興奮を教えたのも、
「……ん、じゃあ……少しなら、いいさ」
とろりと溶ける瞳を教えたのも、つまみ食いの劣情を教えたのも、
「へぇ、言うじゃねぇかよ」
強気の口ぶりの下で、まだ見ぬ快感に打ち震える期待を懐柔する方法も、すべて、彼の与えたものだ。
「かーわいい、天化」

目を伏せた天化は、耳を染めてそばだてて、音を知る。少しだけ開いた、乾いたままの唇を重ねる寒風の夜のあたたかい音。
「んは……っ」
それが湿り気を帯びること。
頬を挟んで一定の間隔で落とされる優しい音に、天化の三半規管は真っ先に根を上げる。塞がれた耳の奥に膨張しきった空気がたまって、じゅるりと深く絡み合う粘液の存在を認識した頃には、胸にひしめく情欲が舌の先まで溢れ出たのだろう。天化の舌がたっぷり発を追いかける。奥まで追いやるほど性急に差し入れて。
それもすべて、発が天化に教えたことだ。瞬間的に目を見開いた発は、厚ぼったい吐息と共に何かを観念したようだった。笑いをたたえて。
「――なぁ、はんぶんこしようぜ」
追随を許さぬ思考と追随を続ける天化の舌に甘ったるく八重歯を立てて、湖面のような目が月夜に笑った。

指の先に絡まる、丸い甘いチョコレート。摘まめばひとふり、幸せの粉が舞う。まるで鱗粉のように妖艶な蠱惑に満ちた柑橘系の甘い香りが、熟れた天化の鼻をくすぐっていた。
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