帰還
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『…久しぶり、私の故郷。』
とある女性はそう呟き、随分と変わった故郷を見渡した。
里の復旧に追われる者や指示を出す者、食料を運ぶ者達で里は溢れかえっていた。
『手伝いたいところだけど…まずは火影様に挨拶ね。』
火影室を目指し彼女は歩き出した。
コンコン、と火影室のドアをノックする。
「どうぞ。」
『失礼します。…只今戻りました、桐生玲です。木ノ葉崩しの際、戻ってこれず申し訳ありませんでした。』
突如入ってきた彼女に、五代目火影 綱手は目を見開いた。
「お前…本当に玲なのか?」
これでもかというほど開いた瞳に、こんな時だと言うのに 綺麗な目だな、と思ってしまう。
『はい。正真正銘玲ですよ。手合わせでもしますか?』
その綱手の様子に小さく口許を緩めながら冗談ぽく問い掛ける。
「まさか。本物だと分かった時にはわたしゃこの世にいなくなっちまうよ。」
やれやれと言った様子で肩を竦める綱手。
「長期任務、御苦労だった。かれこれ10年…いや、それ以上か。お前の活躍は随一報告が入っていたのでな、此方も把握出来ている。良く帰ってきてくれたな。」
その言葉に玲は目を伏せ小さく首を振る。大したことが出来なかった上に、大蛇丸からこの里を守れなかったことが彼女自身の強い責任感に訴えかけているのだろう。
『そう言って頂けて光栄です。…これからは暗部と正規舞台、どちらの任務も振り分けて頂いて構いません。忍不足の世の中、私に出来ることはさせて下さい。』
その言葉に綱手は少々頭を抱えた。忍不足なのは事実な上、玲ほどの実力を持った忍が戻って来たとなれば上も黙ってはいないだろう。だが綱手としては、少し休ませてやりたいのだ。何せ10年を超える長期任務を1人でこなした身だ。いつ襲われるかわからない状況で10年。そこらの上忍ではいつ精神的に壊れてもおかしくない。それを平然とやってのけたとは言え、やはり周りが心配していることも事実。
「…いや、今から2日はお前を休暇とする。10年振りの休暇だ。喜べよ。」
悩んだ後、2日という短い日数ではあるが休暇を言い渡した。
「その間に待機所とかに挨拶を済ませておけ。お前がいつ帰ってきてもいいように住まいも用意してある。」
ひょい、と投げられる小さな金属。それは待機所近くの部屋の鍵だった。
『何から何までありがとうございます…ですが休暇は必要ありませんよ?』
いきなり休暇を貰っても何をしていいかわからないですし、と瞬きをする玲に綱手は小さく笑う。
「だからこそ今休暇をやったんだ。この2日間で好きなことをやれ。その代わり明明後日からはビシバシ動いてもらうからな、覚悟しておけ。」
あぁこれは何を言っても無駄だ、休暇を貰うしかないと悟った玲は渋々頷いた。
『…分かりました。ですが何かあればすぐに呼んでください。いつでも動けるように準備はしておきます。』
玲の言葉に綱手はしっかりと頷く。
こうして玲の束の間の休暇が始まった。
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