どんなに仕事が忙しいときでも、バレーの試合は、録画してでも必ず欠かさず見る。
“意味はない”と、自分自身に言い聞かせてはいるけれど、本当は、“ある人”を見たいから。
「……」
疲れている日は、無意識にここへ来てしまう。
ここ、とはーーーー烏野学校。
私の青春がつまっているところ。
そして、後悔がつまっているところ。
大好きで、大好きな、影山に告白できなかったところ。
『みょうじ!』
『影山、がんばって!』
『おう!』
目を瞑れば、思い出す。
あの時の影山の笑顔。
なんで告白できなかったんだろう。
「帰ろ…」
溜息を一つついて、身体を家の方向へと向けた時だった。
「みょうじか…?」
「え、かげ、やま…?」
私に声をかけてきたのは、いつもテレビの向こう側で、バレー選手として輝いている影山だった。
私はあまりに突然の出来事に、固まってしまう。
「…なんでここに?」
やっとでてきた言葉は、とにかく疑問に思っていること。
なんでここに影山がいるの?
「あ、いや、明日デカい試合だから、気分転換、に…」
なんか落ち着くんだよな、と言葉を付け足した影山。
「ん、わかるよ。ここにくると、もっともっと頑張れる気がする…」
沈黙が二人を包む。
チームメイトだった時、なにをあんなに話してたのか、今では思い出せない。
「……じゃ、じゃあまたね。試合、頑張ってね」
私は、この空気に耐えきれなくて、それだけ言うと、この場から立ち去ろうとした。
すると、少し強めにつかまれる左腕。
「あの、さ、試合見に来ねー?」
暗くてよく影山の顔は見えない。
今、どんな顔をしているの?
「……昔みたいに、その、みょうじに応援してもらいたい」
そして、急いで腕を離したと思ったら、そのまま走っていこうとする影山。
「待って!」
思わず呼び止めた。
雲で隠れていた月が顔を表して、影山の顔が明るく映し出される。
「ねぇ、影山。私ねーーーー」
高校時代、言えなかったことを
今、伝えるね。
もう私は高校時代みたいに、近くで応援することは出来ないけれど、
観客席から貴方のこと、見つめさせてね。
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