べた惚れ同士のこの恋は




風邪をひきました。
熱が出ました。

原因は分かっております、はい。

あいつです。


あいつが風邪を引いてるのをいいことに私に甘えてきて、つい甘やかして、ちゅっちゅちゅっちゅしていたら、風邪菌をもらいました。

そりゃあ風邪菌だって、健康な人間が近くにいたら乗り換えますよね。


今日学校行けなかったし、部活も休んじゃったし…ううう。


「くっそあの馬鹿男のせいでぇえ…」

「それ誰のことかなー?」


聞きなれた声が聞こえてきて、そちらへ顔を向ければ、

原因である“あいつ”が腕を組み、意地悪い表情を浮かべて立っていた。


「夜久…」

「ほい、これお見舞い」

ゆっくり起き上がり、目の前に置かれた袋を開ければ、私の大好きなみかんゼリーと桃ゼリーが入っていた。

「わぁ…ありがとう」

「なまえ、髪ボサボサだぞ」

夜久は笑いながら私の髪を手櫛で整えてくれる。

「汗かいてるから汚いよ?」

「気にしねーよ。何年お前を見てると思ってんだよ」

それはそうか。もう付き合って三年くらい経つしね。
すっぴんはもちろん見せていない私はない気がする。

「…あんがと夜久」

「いーえ」

でも私はいつでもこの夜久の笑顔に胸がキュンキュンしちゃうんだぁ…。

「夜久ー」

「ん?」

「いーこいーこして」

「なんだよ甘えてくるなんて珍しいな」

そう言いながらも、私の頭を優しく撫でてくれる。
ん、周りの男子より一回りくらい小さな手。
でも私にとっては一番安心する手なの。





珍しく甘えてきて、風邪なのに一瞬襲いそうになった。
普段より弱々しいなまえ。

平然を装って頭を撫でてやれば、なまえは気持ちよさそうに微笑んだ。



「ゼリー食べる」

なまえはいきなり袋をあさり、みかんゼリーとスプーンを取り出して、俺に渡してきた。

「は?」

「食べさせて?」

「どんだけ甘えん坊なんだよ」

蓋を開けて、みかんを掬って口元に持っていけばなまえは嬉しそうに口を開ける。
それを何度か繰り返す。

……食い意地はった雛鳥に餌付けしてるみたいだな。


「…なんか失礼なこと考えてない?」

「お前エスパーかよ…」

「夜久の考えはなんでもお見通しですぅー」




そのあと今日の部活のことを話してやれば、なまえは楽しそうに聞いていた。


「なまえそろそろ寝な?明日も学校来れなくなるぞ?」

俺が来て、一時間は経つ。
あまり話していてもなまえの風邪は良くならないだろうし。


「んんん…分かった」

名残惜しそうに俺を見ながらも、モゾモゾと布団に潜っていく。芋虫みたいだな…。


「俺そろそろ帰るよ」

ってかもう普通にもう抱きしめたい欲が半端なかった。
だからとりあえずなまえから離れようと思ったのに、

「え…、やだ。もう少しいて?あ、でも風邪うつっちゃうか」

……可愛すぎんだろ。
ああああ抱きしめてぇ…。


「うつんねーよ。もうひいたし」

「あはは、この風邪夜久からうつされたんだもんね」

「ごめんな」

「バーカ。でも別にいいよ」

いつものように悪戯っこく笑うなまえ。
おでこにキスしてやったら、ちょっと照れながら笑った。



「……キスしてい?」

なまえに顔を近づければ、ふいっと顔を背けられる。

「だーめ。もしまた夜久にうつったらどうすんのよ」

だよなぁ…。
けれどなまえは少し考えたあと、俺を手招きする。


「ん?」

顔をなまえに近づければ、頭を掴まれて引き寄せられ、頬に柔らかいものが触れた。

「口はダメだからほっぺ」

頬を抑えて、固まる俺になまえはもう一度悪戯に笑ったんだ。




「治ったら覚えとけよ…」

「きゃー怖い怖い」






べた惚れ同士のこの恋は
(大好きで仕方がない)





あとがき

お互いに大好きで仕方がないなまえちゃんと夜久くんでした。
なまえちゃんと夜久くんは普段からとても仲良しで恋人というより友達みたいな感じですが、結構地味にイチャイチャしてると思います。


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