月が綺麗ですね。




「なまえって好きな人いないの?」

「えー、んー…いないかなぁ」

高校生の女の子達の話といえば、恋バナ恋バナ恋バナ。基本は恋バナ。
もちろん私だって恋バナが嫌いなわけではない。興味だってある。

けれど、私の好きな人は、

みんなに言えるような人じゃないから。


「なまえ、美人なのにもったいなーい」

「そんなことないよ」

なんて適当に返してしまったり。


そこでチャイムが鳴って、皆面倒くさそうにそれぞれ自分の席へと座った。

でも、私は今とても幸せだ。
次の授業はーーー


「おはようございます」

大好きな武ちゃんの授業だもの。

皆から“武ちゃん”って呼ばれている武田先生。
優しくて、いつもニコニコしていて、ちょっとポエミーで、生徒にも人気の先生。


私は国語の時間が大好き。
だってずっと武ちゃんのこと見ていられるから。

あっという間に授業は終わってしまう。
本当に嫌いな数学と授業の時間同じなのかな。
国語だとすぐに終わっちゃう。


「ーーでは、お昼休みにノートを集めて持って来てください。んーと、今日はクリスマスだから、25日で…出席番号25番のみょうじさん。お願いしますね」

……えっ!私だ!私、出席番号25番だよね!?
っ…やったぁあ!


「はーい」

なんて平然と返事をしたけれど、心の中で大騒ぎ。


ねぇ、武ちゃん。私武ちゃんのことすっごく好きなんだよ?


昼休み。
集めたノートを持って、職員室へと入ろうとしたらちょうど武ちゃんが職員室から出てきた。

「あ、みょうじさん。ノートありがとうございます」

にっこりと笑う武ちゃん。
胸がほわって暖かくなって、思わず頬が緩む。


ーーー何故だか分からないけれど、その時、この前覚えた“この言葉”を言いたくなったの。



「武ちゃん」

「はい?なんですか?」


「……とっても暖かいですね」


「…え?そうですか?今日は寒いですよね」

12月25日だもの。校内といえど廊下はとっても寒い。

でも私は構わず続けた。


「ふふ、でも、星が綺麗ですもの」

「え?」


集めたノートを渡して少し走って離れてから、先生が持つノートを指差す。


「国語の先生がこれ分からなかったらだめだよ!ちゃんと前回の授業の内容復習しないとね」


それだけ言って私は走って教室へ戻った。



私の想いに早く気付いてね?






『夏目漱石はI Love Youを、月が綺麗ですね、と訳したんです。とてもロマンチックで素敵ですよね』






月が綺麗ですね。
(「…っ、なんでみょうじさんはあんなことを…」)





あとがき

武ちゃんのことが大好きななまえちゃんのお話でした。
ちなみに、

「暖かいですね」→「貴方がそばにいてくれて、幸せです」

「星が綺麗ですね」→「貴方は私の想いを知らないでしょうね」

という意味があるようです。
なのでなまえちゃんは、

いつも武ちゃんのそばにいられてとっても幸せだけれど、貴方は私の想いは知らないでしょうね。

と伝えたかったんですね。
武ちゃんは後から気付いたようです。
さて、どうなるのやら…。


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