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いつか貴方と目が合えば




『なまえ、大好きだよ』

いつも徹は優しい笑顔でそう言ってくれる。
そして私はいつも同じ言葉を返すの。

『うん、私もだよ』

今まで一度も言ったことはない。

“大好き”という愛の言葉。



私がこの青葉城西高校に入学してすぐに知った。
及川徹というとてもかっこいい二年生の先輩と、三年生の先輩が付き合っていて、皆から憧れられてるって話。

何度か見たことがある。
二人が並んで歩いているところ。

彼女さんはとても優しそうで、長い髪を揺らす、ふわふわとしている女の子らしい人で、及川さんの隣でいつも柔らかく笑ってた。

及川さんも彼女さんのことをすごく大切にしているのが分かった。
たまに頭を撫でたり、髪を触ったりしていて、本当に好きなんだなぁ…って思ってた。

とても素敵で、とても羨ましいと思った。


けれどそれでも及川さんのことを好きになる女の子は絶えなくて、もちろん私もその中の一人だった。

もともとバレー部だったこともあって、バレー部のマネージャーになった。
髪だってのばした。女の子らしくなりたくて、お菓子作りを始めたり、お化粧を頑張ったりした。

好きになってもらえなくてもいい。
及川さんの近くで、及川さんのことを応援したかった。


「なまえちゃーん」

「なんですか?」

「テーピングしてもらってもいい?」

「はい」

及川さんに触れるのにどれだけ緊張しただろう。
でも、及川さんは平然と私の頭を撫でて、「ありがとうねー」って笑うんだ。
後輩マネージャーとしてしか見られてないことなんて痛いほどよく分かってた。


けれど、
ある日、及川さんが彼女さんと別れたって聞いた。
噂によると、彼女さんが女の子達からの嫉妬に耐えきれなくなり、別れを告げたそうだ。

彼女さんは優しい人だったから、きっと及川さんを独り占めすることに心を痛めてしまったんだと思う。


及川さんは見ていられないくらい辛そうで、声をかけることもできなかった。

ただ、そばで、
「及川さん、今日もお疲れ様です」
ただ、その言葉だけを言い続けた。


いつからだろう。及川さんの私を見る目が変わってきたのは。

その目は昔私が見た、彼女さんと一緒にいる時の目だった。
優しくて、宝物を見るような目。

けれどーーー私を見てるんじゃないってすぐに分かった。
及川さんはそばにいた私を彼女さんと錯覚して、彼女さんと私を重ねて見てた。
及川さんは隣にいる私に、彼女さんが隣にいた時と同じように接してきた。


「長くてふわふわの髪、俺好き」

だって及川さんの彼女さんの真似したんだもの。

「なまえちゃんの笑顔を見ると落ち着く」

それはきっと私じゃないですよ。



「なまえちゃん、俺と付き合って?」

ーーその言葉を断れるわけがなかった。





「なまえ」

「ん?徹、どうしたの?」

「なんか俺のファンの子達がなまえのクラスにいるって話聞いたから大丈夫かなって」

うん、確かに来て、私に文句を言っていったけど私は何も気にしてないよ?
ねぇ、徹。私は彼女さんじゃないよ?
誰に何を言われても、徹が離れない限りそばにいるよ?


「来たけど、特に大丈夫だったよ」

「そう?ならいいんだけど」

私の頭を撫でる優しくて大きな手。
徹は私の事をすごく大切にしてくれる。


「じゃあまた部活でね」

「うん。またあとでね」


私はそんな徹に甘えて、そばにいる。
徹が私を見ていないことなんて分かってる。

でも、それでもいいの。



「なまえ、大好き」

その優しい言葉に私は今日も同じように返すの。



「うん、私もだよ」







いつか貴方と目が合えば
(私を見てくれるでしょうか?)





あとがき

一応続きも考えてあるのですが、続くか微妙です。

書いててとても切なくなるお話でした。
甘さがあまり入らなかったので、続きを書くことがあれば、そちらを甘甘にしようと思います。



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