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及川兄妹A




「まじで言うの…?」

「岩ちゃんならお兄ちゃんも何も言えないでしょ!」

「いや、あいつはぜってー言う……」

頭を抱えた岩ちゃんの腕を掴んで無理矢理引っ張って歩く。

体育館の扉を開ければ、少し早めに集まった部員達が一斉にこちらを向く。
まだ部活の時間ではないけれど、皆練習を始めていた。

「なまえ?どうかしたの?ってか岩ちゃんとくっつきすぎ!!」

もちろんお兄ちゃんである及川徹もいる。
練習を止めると、ムッと拗ねた顔でこちらへと早歩きで近付いてきた。

「岩ちゃん早く着替えてきなよ」

岩ちゃんはまだ制服姿。
それはもちろん授業が終わったあと、私と話していたから。


「あのね、お兄ちゃん」

「ん?」



隣で項垂れる岩ちゃんを無視して私は話を続ける。


「私ね、岩ちゃんと付き合ってるの」


その時のお兄ちゃんの顔はこの先一生見ることはないと思う。
尋常じゃないくらい驚いた顔をしている。

そのまま固まって30秒。
ゆっくりと動き出したと思ったら、私と岩ちゃんの間に割って入ってきた。
岩ちゃんは面倒くさそうにため息をついている。


「……え、は?ちょ、まってどういうこと!!?ハ!?岩ちゃん?なに!?え、俺のなまえが!?」

「お兄ちゃん……落ち着いて」


そして私の肩を掴んでぐわんぐわん前後に揺すり出す。

「なまえ!?なに言ってるの!!?岩ちゃんなんてただの暴力男だよ!?暴言はくし、普通に殴るよ!!!?そんなの嫌でしょ!?」

「ちょっと、ああもう揺らさないで!」

お兄ちゃんの頭をチョップして黙らせる。

「あのね、それお兄ちゃんにだけだからね?お兄ちゃんがバカばっかりするからでしょ」

「そ、そうだけどさ!」

混乱しすぎて認めちゃってるし。
やっぱりお兄ちゃん、バカ。


「岩ちゃん俺のなまえに手出してたの!?」

「あー…まぁ」

珍しく歯切れの悪い返事を返す岩ちゃんに私は隣でクスクスと笑う。

「ってかお兄ちゃん昔言ってたじゃん!なまえの彼氏は、俺みたいな人か岩ちゃんみたいな人ならいいって」

その話は初耳だったようで岩ちゃん眉を寄せて、すごい微妙な顔でお兄ちゃんを見る。

「そ、れは…言ったけどさ!9割は俺みたいな人じゃないとダメって意味だからね!?俺みたいに優しくてイケメンの人!」

「岩ちゃんだって優しくてイケメンだもん」

「どこが!!?」

その瞬間岩ちゃんからの愛のゲンコツが降ったのは言うまでもないだろう。



「とりあえず私と岩ちゃん付き合ってるから。邪魔しないでよね」

「俺だけのなまえがぁぁぁ…」

「…まぁ、悪いな。なまえもらうわ」

いつものように頭を撫でてくれる岩ちゃん。
お兄ちゃんは私と岩ちゃんを交互に睨んだ後、岩ちゃんの手を退かせて私の頭を何度も撫でた。

「何言ってんの!?認めないからね!一生!」

「抱きつかないでよ…」

私のことを強く抱き締めながら、岩ちゃんと距離をとる。

「ってかお兄ちゃんそろそろ部活の時間でしょ。私帰るから離して」

「あ、俺着替えてくるわ」

岩ちゃんが体育館を後にしたあと、お兄ちゃんは私を見つめていった。

「……手繋いだり、ちゅーとか絶対許さないからね!」

「…バカじゃないの?」


私も体育館を後にしようとすれば、追いかけてきそうな勢いのお兄ちゃんを部員の皆さんが止めてくれた。

ありがとうございます。皆さんなら止めてくれるって信じてました…!
だから私はここでお兄ちゃんに言おうって思ってました。

神様達に感謝しながら私は岩ちゃんの後を追う。


「いーわちゃん」

後ろから背中に抱きつけば、岩ちゃんは疲れた顔でこちらを振り返る。

「クソ川がめんどくさかった…」

「でもこれで思いっきりイチャイチャできるよ?」

ぎゅっと腕に抱きつけば、岩ちゃんは少し屈んで触れるだけのキスをくれた。

「まぁ…それは嬉しいな」

「あ、さっきちゅーは許さないからねってお兄ちゃんに言われたばっかりだった」

「……無視しとけ」

「はーい」




お兄ちゃんごめんね?
私、もうお兄ちゃんだけのものじゃないの。

でもね、お兄ちゃんに一番に伝えたんだよ?
この意味…分かってくれたら嬉しいな。



及川兄妹A
(岩ちゃんなら仕方ない…けど、やっぱり嫌だああ)





あとがき

なまえちゃんはお兄ちゃんのことが大好きで大切だからこそ、一番に伝えたかったんだと思います。

ちなみにこの時点でもう付き合って一ヶ月はたっています。
岩ちゃんが、及川がウザそうだから言いたくない、と駄々をこねていたからです。


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