「正しい選択」


《Z市は巨大隕石衝突による消滅は避けられたものの、破壊され分裂した隕石群は町全体に大きな爪痕を遺す結果となりました。……》


「ひでえな…。」
「ああ。ほんとひでえよ。」


誰かのスマホから流れるラジオのニュースで、被害の大きさを客観的に把握した。


『ソヨカゼ…よかった無事だったんだね。』
「うん。ありがたいことにね。居候先の家もわたしも無傷だよ。」
『それを聞いて安心したよ。あたしの家は全壊。偶然皆家にいなくて無事だったのは不幸中の幸いだけどね。』
「そうなんだ、大変だったね。」
『ホントだよ〜!今朝親戚の家に着いてさ。ちょっと遠いんだけどね〜。今は皆ようやく落ち着いてきた所。』
「そっか…。」
『悲しい声出すなって!そっちも落ち着いたら遊びにおいで!』
「…うん、ありがとう!」

友人のツバキからの電話を切り、ベンチから腰を上げる。
いつまでもしょぼくれていられない、わたしも前を向かなくては…。

そんなわたしは今、居候中のゴーストタウンから離れた市街地にいた。
というのも、念のため学校の状態を把握するためだった。

市内のあちこちに、警察官や自衛隊、そして何人か見たことのあるヒーロー達が慌ただしく走り回っていた。

反対に、住人達は精気を失ったかのようだった。
誰もが破壊された自分の家や店などの施設を前に立ち尽くしたり座り込んだり、とにかく落胆していた。


学校ももちろんボロボロで、とても授業なんて呑気なことは出来そうになかった。
近くで頭を抱えていた教師に聞けば、生徒はしばらく自宅待機ということだった。
しかし、ツバキのように自宅を失った生徒もいるだろうに、一体これからどうなるんだろう。


わたしは市街地を歩きながら、今後のことをぼんやりと考えていた。


「…クソ、隕石さえ落ちてこなけりゃ…。」
「それはどうしようもなくね?」
「でも誰かが隕石を破壊したから今こうして被害受けてるんだろ?」
「それはまあ…。」
「もっとこう、隕石の軌道を変えるとかさ?そうしたらよかったのに。」
「確かに。わざわざ破壊しなくても…。」

「もっといい方法が…。」
「破壊されなければ…。」


「誰だよ隕石砕いたの。」



わたしは叫びたい気分になった。


S級ヒーローでも歯が立たなかった隕石の接近。
衝突までもう時間が無かったあの時。

それに、怪我人は多数出たらしいが、死者が1人も出なかったという。



だというのに、あれ以上の最善策などあっただろうか?


あるわけない。
今わたし達がこうして五体満足で歩いていられるのは、ひとえにサイタマさんがいたから。

隕石が砕かれたから。


「ローン残ってたのに…。」
「俺だって、命より大事なゲームのデータが消えたんだぜ…。」
「なんだそれヤバイ。」
「まじで許せねえ。」
「ああ見つけたら訴えようぜ。」


わたしは虚しさを吐き出すように、ため息を吐いた。




公開:2017/1/22


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