となりのヒーロー


「あ、サイタマさんおはようございます。」
「おぉ、おはよ。今日もいい天気だなぁ。」
「ええ、ほんとに。おでかけ日和ですね。どこにも出掛けないですけど。」
「アンタも?ハハハ、俺もだよ。」



『へー、こんなとこに引っ越してくるやついるんだなぁ。あ、俺はサイタマ。趣味でヒーローをやっている者だ。』
『…ひ、ヒーロー?…趣味で?』


この間引っ越してきたZ市のアパート。
いわくつきなんて言われて少し怖いかもと不安になったけど、なんてことない、日当たりはまあまあいいし、通りも静かだし、お隣さんもちょっと変わってるけど面白い方だ。
都会の喧騒と会社勤めからのストレスで鬱と診断されたわたしの滋養生活にはもってこいの環境だ。

部屋に幽霊でも出るのかと心配したけど、幽霊どころか通りにすら人っ子一人いない。
静かすぎるというか頭の綺麗なお隣さん以外全然見かけないというか、誰もいないというか、時々外で破壊音がするとか最近になって色々疑問は湧いてきたけど…。

うん、気にしない。
今日は新しく買ってきたゲームを進めるんだ。楽しみ。



ズガガガガ!!

「ん?」

ゲームに熱中していて気付かなかった。
近くで何やら大きな音がし、グラリと揺れる。
慌ててポーズ画面にし、ゲーム機を掴んだまま表に出る。
建物から離れ道路上に立ち、見上げると、何やら怪人がアパートにしがみついていた。

…え?怪人?


「ガリガリガリィ…俺様はコンクリュージョン…!コンクリが大好きすぎて怪人化しちまったが、なんやかんやコンクリを食って成長する今の生活楽しんでるぜぇ…!」

どうでもいい自己紹介と自己申告。
怪人は自分勝手な奴らばっかりだと聞いたけどまさにそうだ。
実際遭遇したのは初めてだけど、怖いというより…。

「俺の家!!」
「…わたしの家!!…あれ?」

ほぼ同じタイミングで、ドアから飛び出したお隣のサイタマさんが叫んだ。

「サイタマさん!」

わたしには目もくれず、なんとサイタマさんは超人的な飛躍で飛び上がると、拳を振り上げる。


「俺の家食ってんじゃねえ!!」


そして、

一撃!

「ぐがあばああぁぁあああ!!!」

粉砕。
見事なまでに。

「ったく……あ?アンタはお隣りの…無事みたいだな、よかった。」
「え…?あ、は、はい…え?」

「アンタ最近引っ越してきたんだっけ、んじゃ知らないよな。この辺多いんだよ怪人。まあそんな骨のあるやつは滅多に出ないから大丈夫だ。もし何かあったらすぐに俺を呼べよ。」

サイタマさんは事も無げにそう言った。

「さ、さっきのジャンプも、パンチも…。あ、あなたは…サイタマさんは、何なんですか…?」


「俺か?この前も言っただろ?俺は趣味でヒーローをやっている者だ。」



頭が変だとか言ってごめんなさい。


あなたは本物のヒーロー以上にヒーローな人だ!!



「ん?お前そのゲーム機…あ、それ最近出た新作じゃん!今度貸してくれよ。」

「え、あ、はい、いいですよ…?」



お隣りにとんでもないヒーローが住んでいた。


fin.




ゴーストタウンになるちょっと前のお話


公開:2017/11/02


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