冬にそなえて


秋の涼風が吹いて、わたしは身震いをした。
ここのところ、昼はさておき朝と夜の寒さがキツイ。
昼はまあまああったかいから、余計にその寒暖差がつらいのだ。

「さむ〜い。」

わたしがそう漏らすと、横を歩いていたクロも頷いた。

「ほんと、さみぃ。」

わたしたちは寒い寒いと言いながら、街頭が照らし出す夜の道を、並んで歩いていた。
部活後の三年生会議を終えて、時刻はかなり遅くなってしまった。
いつも一緒に帰る研磨も流石に帰っていて、わたしたちは久しぶりに2人きりで帰路についた。

「明日から長袖セーター着ようかな。」
「ああ。それくらい寒いわ。」
「ワイシャツって冷えるよね〜。」
「わかる。」

他愛のない話も、研磨のような鋭いツッコミが入らないと、だらだら続くだけ。
だけど、そんな会話がわたしにとっては楽しくて、幸せだった。


「今からこんなに寒かったら、わたし冬は死んじゃうよ。耐えられないもん。」

わたしがふざけてそう言うと、クロは少し真剣な顔をして、そうかも、と返した。

「朝練遅刻しちゃうな。」
「それは、させねぇよ。俺が叩き起して、引きずって行くから。」
「あ〜クロならやりかねない。」

わたしがケラケラ笑うと、クロも表情を緩めた。

「ま、安心しろよ。冬も大丈夫だから。」
「?何で?」
「ほい。」

そう言って、クロは笑って手を差し出した。
わたしは、数秒して状況を理解し、顔に熱が集中した。

「え、外でそういうのは恥ずかしいって…。」
「手ぇ繋ぐだけだろ?別に、キスするとかアレするとか…、」
「ちょ、ちょっとっ!!」

クロは笑ってごめんごめん、と謝った。

「いいから、」

そう言って行き場を失ったわたしの手が掬い上げられた。

「繋ごーぜ。あったかいから。」
「あ…。」

そう言われて繋いだ手は、本当にあったかかった。

「ポケット入れてあっためといた。日和が寒がるだろうなーと思ってさ。」
「クロ…!」

わたしは目を大きく見開いた。
クロはすごい。いつも先を見据えている。
しかも、わたしを気遣ってくれる。

本当に、優しくて、あったかい人。

「これで冬も安心だろ?」
「…うん!」

ありがとう、そう言うと、前を見ながらイイエ、と返された。



「あ、でも冬は手袋するかな。」
「えぇ…そこは敢えて手を握ってくれよ!」



fin.



公開:2016/10/31/月


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