Secret Garden 〜黒狼侯爵の甘い罠〜 | ナノ













Secret Garden 〜黒狼侯爵の甘い罠〜







3、僕と一緒にお風呂に入ってよ 1

 ブルーベルが幼馴染のウォルドの屋敷へ訪れるのは、ほぼ日常化していた。ついこの前までウォルドは風邪をひいていたのだが、それが完治してからは嘘のように元気だった。
 夏。
 今日は彼の祖父が異国から取り寄せたという、珍しい織物を見せてもらっていた。とても細かな刺繍が施された絨毯であり、見るからに高価だとわかるもの。触って汚してはいけないと、ブルーベルはテーブルの上に置かれている織物を珍しそうに眺めていた。そんな彼女の真横に立っていたウォルドは、ブルーベルの左肩をぽんぽんと叩く。
「ブルーベル。お願いがあるのだけれど」
 幼馴染のウォルドは、時折妙なことを言い始める。ブルーベルは既に慣れていたので、特に心構えはしなかった。
「なに、ウォルド」
「僕と一緒にお風呂に入ってよ」
 ブルーベルはその意味を真剣に考え込んだ。
 ウォルドは笑わせようと、そのようなことを言ったのか。
 それとも自らが聞き間違えてしまったのか。
 否、お風呂場に何か用事があり、そこまで付き合って欲しい、という意味かもしれない。
 きっとそうに違いない。
「お風呂場に、何か忘れ物でもしたの?」
「ふふ。違うよ。ブルーベルと一緒にお風呂に入って、お互い体の洗いっことかしたいだけ」
 彼は何を言っているのだろうか。
 ブルーベルは冷静になろうとした。だがどうしても冷静になれない。先日彼が羊の交尾などという質問をしてきた時も意図が読めずに混乱してしまったが、今日もおかしい。
 ウォルドが貴族の子供ゆえにおかしいのか、それともウォルドが特別おかしいのか。
 そうしてブルーベルは、ふと気が付いた。
「ウォルド、もしかしてお風呂に一人で入れないの? 貴族って着替えや入浴を侍女に手伝ってもらうって聞いたことがあるけれど、ウォルドも侍女に体を洗ってもらってるの?」
 ブルーベルは真顔で問い返した。ウォルドは首を振ると、目に涙を浮かべて斜め左下を向く。
「お風呂は、いつも一人で入っているよ。そうじゃなくて…。ほら…、僕って生まれつき体が弱いから外にも満足に行けないだろう? だから、川や湖で遊んだりしたことがないんだ。友達もブルーベルしかいないし。そういう理由で、一生に一度でいいから、外で川遊びや湖で遊んでる気分を味わってみたい、と思って」
「だから、私と一緒にお風呂へ入りたいの?」
「うん。お風呂なら、川や湖で遊んでいる雰囲気が味わえるかもしれないだろう? まぁ、お風呂場は川や湖じゃないから、一緒に体を洗いっこしたり、お湯の掛け合いっこをすることになるだろうけれど」
 ブルーベルはウォルドの言葉に感情移入をした。そうなのだ。ウォルドは調子がいい時でも、あまり外出をしてはいけないと医者から言われている身。外でのそういった遊びに憧れる気持ちがあるはずなのに、どうして理解してあげられなかったのだろう。
 ブルーベルはウォルドの両手を、自らの両手で包み込むように握った。
「そうだよね、外で川遊びをしたり、湖で遊びたいよね。執事のハンスさんに、許可をとってきてあげる! 待ってて」
 ブルーベルは部屋を飛び出した。だから、それを見送ったウォルドが切ない顔をしていたことは、気づけなかった。






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