Secret Garden 〜黒狼侯爵の甘い罠〜 | ナノ













Secret Garden 〜黒狼侯爵の甘い罠〜







5、僕の天使

 僕には、可愛い女の子の友達がいる。
 まぁ、僕は友達だなんて全く思っていないんだけれど、彼女と仲良くする為にお友達ごっこをしている。
 彼女、ブルーベルからすれば僕は友達なのだろうけれど、僕はブルーベルと友達ではなくて、それよりももっと親しい仲になりたいんだ。
 いわゆる大人の関係、ってやつ?
 初対面で恋に落ちる話なんて馬鹿馬鹿しいと思っていたけれど、訂正する。
 一目惚れはあった。
 初めてブルーベルと出会った時、本物の天使かと思ったんだもの。会話をしてみたら彼女は牧羊で有名なアランハルト家の娘で、天使ではないとわかったのだけれど。
 正直、天使じゃなくてほっとしている。
 だって天使だったら空に帰っちゃうだろうし、僕のもとへ繋ぎ止めておく方法が思い浮かばない。羽を切り落としてショック死でもされたら目覚めが悪いし…。
 いや、そんな狂気じみたことはしないけれども。
 とりあえず、僕がどれだけブルーベルを好きなのか語ってみよう。
 ブルーベルは、僕が少しでも体調を崩すと、それはそれはもう真剣に心配をしてくれる。湿地まで赴いて体に良いとされるアンゼリカを採ってきてくれたり、寝つきをよくするカモミールも持ってきてくれるんだ。僕が咳をすれば落ち着くまで背中を撫でてくれるし、僕のつまらない話を聞いていつも笑ってくれる。
 正に天使だよね!
 いや、もう、天使にしか見えない。
 僕だけの天使!
 これまで体が病弱なせいで人生を悲観していた僕にとって、彼女は春そのものだ!
 彼女と出会って幸せで順調すぎる毎日だけれど、僕には幾つか心配事があった。
 一つ目は、ブルーベルが残酷なこと。
 ブルーベルがアンゼリカを採って僕に持ってきてくれるのは嬉しいのだけれど、僕はブルーベルにアンゼリカを食べさせたいよ。もう嫌っていうほど。
 え? なんでかって?
 ふふ、それは秘密だよ。まぁ、これは未来のお楽しみにとっておこう。
 二つ目の心配は、ブルーベルが他の男にとられないか、ということ。
 幸いなことにブルーベルが暮らしている村には、ブルーベルと年齢が近い男友達はいない。だから必然的に僕と仲良くなったのだけれど。ほら。ブルーベルって、天使だし? 貴族の女性のように気位は高くないし、お父さん想いで優しい子だ。あんなに可愛い子、他の男が放っておくわけ無いと思うんだよね。僕なんて病弱で、ブルーベルからすれば母性本能をくすぐるだけの存在だ。僕はそういうのじゃなくて、頼れる男として見られたいのに!
 三つ目の心配は、ブルーベルが鈍いということ。そのおかげで他の男が付け入る隙も無いのだけれど…。それにしたってブルーベルは鈍いにも程がある。
 この前、ブルーベルに羊の交尾の話をふってみたんだ。まぁ、僕としては思い出したくもない悪夢の言葉がよみがえるからそこには詳しく触れないけれど…。ブルーベルがまだお子様だから純なのか、それとも天然なのか。
 そういえば、その後日。ブルーベルの気を引きたくて一緒にお風呂へ入ろう、って言ったんだ。ブルーベルは僕に甘いし、膝枕も許してくれたから一緒に入浴するのだって許してくれるはず、と。
 まぁ…、結果は惨敗だったよね。
 ストレートに一緒にお風呂に入っていちゃいちゃしたい、って言えば良かったと後悔しているよ。あの時はブルーベルの鈍さが恨めしかったけれど、二日前に彼女と湖へ行けたから良しとする。
 湖で狼狽えるブルーベル、可愛かったなぁ!
 あまりに可愛いから、思わずキスしそうになったよ。
 おっと、いけない、いけない。ブルーベルと初めてキスをした時のこと、僕は激しく落ち込んでいるんだ。反省しなきゃ。
 ブルーベルと初めてキスをしたのは、継母から虐待を受けていることを教えてもらった日だ。
 まさかブルーベルが継母に虐待を受けてるなんて知らなかったし、ついキスをしてしまったけれど。本当は僕の中では、ブルーベルと結ばれるまでの壮大な計画を用意してあったんだ!
 初めてのキスは僕からブルーベルに付き合って欲しい、って愛の告白をしてから、って。
 告白の場所も当然決めていたよ。薔薇の庭園とか、綺麗な泉の畔とか、ロマンチックな場所。
 失敗してしまったけれど。
 でも後悔はしていない。
 あぁ…、やばいな、僕。ブルーベル相手に自制心が効かなくなってる。でも、僕は悪くないよね。可愛すぎるブルーベルが悪いんだ。
 それはともかく、一体どうすればブルーベルの心に僕に対する恋が芽生えるんだろうか。僕と初めてキスをした翌日も平常通りで、まるでキスなんて無かったことにされているし。
 僕の繊細な心はズタズタだ。
 まぁ、そういうところも好きなんだけれどね!
「ウォルド、どうしたの? ぼーっとしているけれど。もしかして、熱でもある?」
 ブルーベルが僕の顔を覗き込んできた。考え事をしていた僕ははっとする。そう、今はブルーベルと一緒にお茶をしていたんだった。目の前に座っているブルーベルがあまりにも可憐だから、一人妄想の世界に入り込んでいたよ。僕のバカ。
「ううん、大丈夫だよ。ごめんね、ブルーベル。君が愛しくてつい見惚れていたんだ」
「やっぱり熱があるんじゃ…」
「無いってば」
 ブルーベルは身を乗り出して、僕の額へ手を当てた。
「熱いよ? ほら、やっぱり熱がある。一昨日、湖へ行ったのが悪かったのかな…。私、ハンスさんを呼んでくるね」
 ブルーベルは部屋を出て行ってしまった。病弱な自分の体が憎い。でもこの熱は風邪とかじゃなくて、ブルーベルが好きすぎて体が興奮したから出た熱のような気がする。
 僕がどれだけ君のことが好きなのか、君はまだ知らない。
 でも、いつか伝えてみせるよ。
 君への愛を。
「あ、あれ…?」
 僕は急激にめまいを感じて椅子から落ちてしまった。そこへ丁度ハンスを連れたブルーベルが戻ってきた。ブルーベルが悲鳴を上げて、駆け寄ってくる。
「ウォルド、しっかりして、ウォルド! 死なないで!」
 大丈夫、と言いたかったけれど、思うように体が動かない。最悪だ。ブルーベルの僕への印象が益々虚弱になってしまう。これは由々しき事態だ。早急になんとかしなければ。
 そう決意をした直後、意識を闇へと手放してしまった。






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