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「ごめん!今日は用事があって、一緒に帰れないの」

「そっか。残念だけど、じゃあまた明日ね!」

「うん、また明日···」

放課後、かえでと一緒に帰ろうといつものように声をかけたら、何と1人で帰る事になってしまった。あれ、どうしたんだろう。何か元気がない···、もしかして昼間やらかしてしまったせいで、心配をかけてしまっているのではないかと申し訳無くなった。

昼間のは中身的に問題だよなぁと、転生した年齢+前世の年齢=Xなので、大人げなかったと思う。うん、かえでのが年下なんだし、ちゃんとしなきゃ。

「どうしたの?何か元気無いよ?···もしかして昼間の事、気にしてるの?」

「···ううん。ほら、早く帰らないとあっという間に真っ暗になっちゃうよ!」

困ったように笑うかえで。
それに加えて背中をグイグイ押されてしまう。
違うのかな?じゃあ、何だろう。
友達だからと言って、人のプライベートな事まで突っ込むのは宜しくないよね。
些か気になるものの。

「そっか、わかった。先に帰るけど、かえでも気をつけて帰ってね!··バイバイ」

「ゆかり!、気をつけて。またね」

何だろう。
いつものかえでじゃないような、今別れてしまったらもう会えなくなるんじゃないかって、変な不安が胸に押し寄せて来る。

大丈夫、きっと大丈夫。
明日になればまた「おはよう!」って挨拶出来るよ。私は胸元でバイバイと手を振って、後ろ髪を引かれる想いで教室を後にした。

「···」

胸がやけにザワついてる。
こんな感覚、生まれて初めてだ。
かえでってば、無理して笑ってなかったっけ?

(本当に、大丈夫···だよね?)

自分の下駄箱に手を伸ばして、ローファーに履き替えた。履き替えたのはいいものの、やっぱり一度気になってしまうと落ち着かない質で、迷った末にもう一度上履きに手を伸ばした。

「やっぱり、戻ろう」

かえでの姿を確認したら帰ろう。
何か聞かれたら忘れ物をした事にすればいい。確認してかえでも一緒に帰れそうだったら、一緒に帰るんだ。

急ごう。
パタパタと廊下や階段を駆け上がって、教室に急ぐ。

(何だろう、凄く嫌な感じがする)

教室に近づく度に、胸の中がモヤモヤしてくる。色に例えるなら、黒だ。コップに汲んだ水の中に、黒い絵の具を垂した感じだ。淀んだ水が、そこに溜まって行くような。重たくて冷たいような空気が漂う教室の前、ドアの溝に指をかけた。冷や汗がこめかみから頬へと流れ落ちる。私は意を決して、ドアを開けた。

「かえで!!」

「な、んで···何で戻って来たの!?ゆかり!」

目の前には、そこだけの空間が異次元空間になっていて、暗い色の絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜたような、ぐにゃぐにゃした空間が出来ていた。

(な、何···これ)

大きな鬼のような何かに首を掴まれたかえでは、黒板にグリグリと体を押し付けられていた。瞬間、私は「ヒュッ」と息を呑んだ。
···、何だろうあれは。

「···、ぇ?か、えで··?」

辛うじて出た声は掠れていて、だけれど、かえでを助けなきゃって、勝手に体が動いてた。

「きっ、来ちゃダ···メッ!!」

苦しそうに声をあげるかえで。
血を吐くように叫んで、バタバタと抵抗している。

「何だァ、いるじねェか」

鬼はこっちを向いた。
両目と額に目があり、貞子の様にむき出していた。恐怖に身が竦む。だけど、ここで逃げ出したら絶対後悔する方が怖いに決まってる!!

「かえでを、···かえでを離して!!」

「うおっ!!?」

スパコーンッッ!!
私は上履きを鬼に投げつけた。
きっかけなんてどうでもいい、かえでが逃げられる隙を作れるのなら。

「かえで!!」

「ゆかり!!」

鬼が怯んだ隙をついて、鬼に思い切っり体当たりした。バッターン!!と勢いよく鬼と転がり、肩を撃ってしまった。起き上がると痛みが走ったけれど、今はそんな場合じゃない。ここから逃げなければ、2人揃って殺されてしまうだろう。

「かえで、早く逃げっ、きゃあぁッ!!?かはっっ」

かえでの元に駆け出そうとした瞬間、鬼に手首を掴まれ、私はいとも簡単に吹っ飛ばされ壁に背中を打ち付けた。

「ゆかり!ゆかり!!」

かえでの声が、遠くに聞こえる気がする。
鬼に覆い被さられ、首をギリギリと締め付けられる。
首が苦しい、息が出来ない。
鬼の腕を掴んで爪をたてても、足をバタバタさせてもビクともしない。

かえでは私の元に駆け寄ろうとしたけれど、床から生えている白い手に捕まり、身動きがとれないでいた。

「あぁ、いいねェ。その苦痛に歪む顔。堪らねェなァ」

「···クッ」

「お前の“特殊な魂”、美味そうだ、美味そうだァ」

グリグリと3つの目玉がそれぞれ違う方向に動いていて気持ちが悪い。顔を近づけられ、もう終わりだと思った瞬間···。

「薔薇棘鞭刃!!」

緑色の鞭を持った、南野くんが立っていた。
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