02
(もう少し、気をつけろ···か)

何に対して?
授業中ぼんやりしながら、シャーペンでノートにツンツンと意味不明な点を量産していた。妖怪には気をつけているけれど、それ以外に気をつけろとは何の意味だろう。

まさか昨日躓いた事?
あれは不可抗力と言うか、誰にでもある、よね?躓く事くらい。うーん···。わからない。

「···い、···橘···」

魔除の御札、持ち歩いた方が良いのかしら。それとも。

「橘!!」

「うぇっ!?は、はい!わかりませんっ!!?···ぁ、」

(し、しまったぁーッ!!)

考え事中に聞こえた教師の声に驚いて、私はガタッと!椅子がびっくりえる勢いですくっと立ち上がった。その勢いのままに思い切り「わかりません!」と言ってしまった···。皆の視線が集中する中、やってしまった。後悔既に遅し。クラス中からは笑い声が溢れ、私は恥ずかしくて恥ずかしくて顔がいっきに熱くなる。うわぁー、穴があったら入りたい!!

「···オホン。橘、授業はちゃんと聞くように。もう座っていいぞー」

あぁ、先生が頭の痛そうな顔をしてらっしゃるー。もう、本当にごめんなさい。とりあえず職員室にはお呼び出しは無いようで、よかった。

「あ、···す、すみませんでした」

大人しくしおしおと椅子に座った。
もう!これも南野くんのせいだ!と、半ば八つ当たりじみた視線を南野くんに送れば、彼も口元に手を当てていた。肩がプルプルと震えている所をみると、笑っているらしい。

くそう。
いつか何かしらの形でお返しして差し上げましょう。この悔しさを!!自業自得だけどね。授業中に考え事していた私が悪いんだけども!!

ここまで思って最終的に馬鹿らしくなったので、授業に集中する事にした。量産した点々は綺麗に消して。

そうこうするうちに、待ちに待ったお昼休み。今日は天気も良いので、かえでを中庭に誘って食べようと、鞄からお弁当を取り出したのだが、本人が見当たらない。

あれ、何処に行ったんだろう。
さっきまで教室にいたのに。

「ねぇねぇ、橘さん。よかったらお弁当一緒に食べない?」

私がキョロキョロと辺りを見回していると、クラスメイトの中谷葵さんが珍しく私を誘って来た。しかし、私はかえでと食べる先約がある。

「葵ったら、無駄だって」

「えっ、でも」

「だって橘さん、いつも“1人でお弁当食べてるじゃない”」

(え、···、1人?)

「え、何言って···私はいつもかえでと一緒にお弁当を···」

「え、?橘さん。“かえで”って、誰?」

「このクラスにそんな子いたっけ?」

「隣のクラスの子じゃない?うちの学校広いし」

「橘さん大丈夫?さっきもぼんやりしてたみたいだけど、具合が悪いなら一緒に保健室に付き合うよ」

え···?皆、何言ってるの?
だって、さっきまで本当に一緒に授業受けてたじゃない。

ドクンッ、と心臓が嫌な音を立てた。
指のつま先からじわじわと冷たくなって行く感覚に、焦燥感。背中に冷や汗が伝う。聞こえている音が、遠くなって行くよう。
そんな、まさか。
だって、昨日だって一緒に帰った。
そんな訳ないよ!!

“橘さんは、もっと気をつけた方がいい”

急に思い出した南野くんの言葉。
別れ際耳元でこっそりと言われた言葉。
かえでが、“妖怪”だとでも言うの?

探そう。
探して見つけて、そうしたらきっと皆にだって···。皆にだって、何が?かえではいるんだもの!妖怪じゃない。

「ねぇ、本当に大丈夫?顔色悪いよ?」

「ごめんなさい。うん、大丈夫。ちょっと保健室行って来る」

「あ、ちょっと···」

「もう、ほっときなよ。橘さん、時々おかしいもん」

「う、うん」

戸惑うクラスメイトの声を背にごめんなさいと謝りつつも教室を飛び出して、私はいつも行っている中庭に来ていた。確認したい。疑いたくないけど、かえでは“人間”なんだって。

「かえでー!!」

いるんでしょ?
だって“気配”がするもの。

「ゆかりおーそーいー!それにどうしたの、そんなに慌てちゃってさ」

「か、かえで···!!」

「どうしたの?ゆかりてば」

ほら、やっぱりいたじゃない。
手にはお弁当を持って。
気がついたら私はかえでを抱きしめていた。
こんなに実態があるのに、“妖怪”だなんて思えない。

「ううん。何でもない。先に行くなら言ってよ。いきなりごめんね、お弁当食べよう」

「ふふふ、変なゆかり」

かえでは目を細め、ゆかりを見つめていた。

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