2 ドワーフの誓い第2番



酷い頭の痛みを感じて、ハルカは目を開けた。
すると目の前には、鉄格子が見える。

「……?」

ハルカは頭を押さえながら起き上がった。辺りを見回すと、頭痛がもっと酷くなるのを感じた。
鉄格子を見て、ここが何処かを悟ったからだ。

(ここ、シルヴァラントベースだ。私……完全に巻き込まれてる…)

横を見ると、ロイドが寝ていた。寝ているというよりは、気絶させられているのだろう。当然ながら、装備は全て外されていた。武器はおろか、ウエストポーチも没収されてしまっていた。
ハルカは、内心頭を抱えた。ここまで来たら、信じない方がおかしい。
この世界に落とされて最初に会った人物がレイフだったので、なんとなく信じられない部分もあったが、ゲームと同じ展開が起こり、しかも自分がそれに巻き込まれている。今のまま状況に流されたら、この世界で死にかねないなと彼女は思った。

(巻き込まれないようにするべき…よね?)

薄情なようだが、そうした方が自分のためなのではないかと、彼女は考えた。正直、良い気分ではない。だが、自分のことで精一杯なハルカは、胸にチクリと感じる痛みを無視した。

そんなことを考えていたら、ロイドがモゾモゾと動き出した。
ハルカはとっさに後ずさる。ロイドと関わらないようにしようとしても、今はどう考えても無理である。鉄格子の中に、二人きりで閉じ込められているのだ。

(仕方ない……ここを出るまでは……)

彼女がそんな覚悟を決めたと同時に、ロイドは呻きながら起き上がった。頭を押さえている。

「いってぇ〜〜…なんなんだよ…」

声まで、ゲームと同じだった。その事実に驚きながら、ハルカは努めて冷静な顔を作り、ロイドに話しかけた。

「不意を突かれたの。ここは多分……シルヴァラントベースよ」

その言葉を聞いたロイドは、勢いよくハルカの方へ振り返った。とたん、彼は頭を押さえて呻いた。

「もう遅いかもしれないけど…頭を激しく振らない方が良いと思うわ。まだ、ダメージから回復してない――」

「お前は…!いって〜…お前一体なんなんだよ…!」

ロイドが怒っている。混乱しているのだろうか、とハルカは考えた。今ここで騒ぎ立てるのは良い事ではないと考えた彼女は、素早く言い返した。

「お前って……私の名前はハルカ・アーバンクローよ。ねぇ貴方は…」

そこまで言いかけた時だった。カツカツと音が聞こえ、誰かが近づいて来る。
ディザイアンだ。おそらく見張りだろう。急に言葉を切った彼女を見たロイドは、不服そうに口を開きかけた。
ハルカは目線でロイドを黙らせると、鉄格子から距離を取る。

「うるさいぞ、静かにしろッ!」

見張りのディザイアン兵は冷たい声でそう言うと、鉄格子をひと蹴りし、去って行った。

「あれは……ディザイアン……」

「だから言ったでしょ、ここはシルヴァラントベース、ディザイアンの基地だ、って」

ハルカの声に、ロイドはしばらく何かを考えていたようだが、ふいに大声をあげてきた。

「!俺の装備がねぇ…」

「当然でしょうね…捕えられたんだから、没収されたのよ。ちなみに、私のもないから」

両手をヒラヒラさせながら丸腰であることをロイドに伝えると、ロイドは溜息を付いた。

「やっべぇ……このままじゃ俺達、処刑されちまう」

ロイドはそう言うと、あちこちのポケットをまさぐりだした。武器になるものがないか探しているのだろう。ハルカはそれを黙って見守る。ゲームの通りならば、彼はあれを持っている筈だった。

ポケットから出てきたモノを見たロイドは、溜息をついた。

「こんなんじゃ役に立たないだろうな…」

そう言って、ロイドはそれをポケットに戻そうとした。

(あれ?展開が違う…!)

ハルカは慌てた。そこでそれを使ってくれないと、いつまでもこの鉄格子の中にいる破目に陥ってしまう。

「ちょっと待って!そのリング……もしかして、ソーサラーリング?」

少しわざとらしかっただろうか、と思ったが、それは杞憂だったようだ。ロイドは不審に思う様子もなく、戻しかけたリングを再び取り出した。

「ああ、それがどうかした?ねーちゃん」

「あのねぇ…私はねーちゃんじゃないわよ!そのリング…たぶん、使えるかも…」

ねーちゃん、とロイドに呼ばれて内心憤慨しつつも、ハルカはロイドに言った。とにかくここを出なければ、話にならない。

「これで?」

ソーサラーリングを見ながら眉根を寄せるロイドに、ハルカは頷いた。

「そのリングの属性が何かはわからないけれど…鉄格子の隙間から……」

小さな声でロイドに話しながら、鉄格子の傍まで行ったハルカは、そこから廊下を見た。
するとその先には、歩きながら巡回する見張りの姿がいたのである。

「アイツを狙えば…」

「!そっか……オマエ、頭良いな〜」

素直に関心するロイドに脱力しながらも、ハルカは呟いた。

「……それは、どーも」




*****




ロイドの持っていたソーサラーリングで見事見張りを撃退した二人は、宝箱を回収しつつ、奪われた装備を取り戻した。
ウェストポーチの中身をチェックすると、盗られた物はなにもないらしかった。剣や盾も見つかった。何故これらの装備が宝箱に入った状態で、しかも捉えた敵の側に置いてあるのか疑問に感じたが、迷っている時間はない。逃げた見張りが戻ってくる危険があった。

剣を装備すると、ハルカはロイドを見た。
彼も丁度装備を整え終わったようだ。彼女は覚悟を決めると言った。この基地を出るまでは、共に行動した方が良いに決まっているのだ。致し方ないことだ、と彼女は自分に言い聞かせる。

「確か……ロイド、だったよね、貴方の名前」

「………ああ」

若干警戒されていることに傷つきながら、ハルカは言った。

「ここから先、何が起こるかわからないわ。だから…この基地を出るまでは、一緒に行動させて欲しいの」

彼女の申し出に、ロイドはしばらく迷っていたようだが、ふいに頷いてきた。

「…………仕方ないよな。ドワーフの誓い第2番!“困っている人を見かけたら必ず力を貸そう”だ」

ロイドはそう言うと、ヘヘ、と笑ってきた。可愛らしい彼のその微笑みに、胸が熱くなる。

(ロイド……かわいい〜)

そんなことを言おうものなら、絶対にロイドが怒りだしそうなので口には出せないなと、彼女は思った。

「ありがとう、ロイド……」

微笑みながらロイドにそう言うと、何故かロイドは目を逸らしてきた。

「べ、別に…ッ」

(やっぱり……超かわいい〜)

「じゃ、しばらくよろしくね!ロイド」

「ああ、よろしくな、ハルカ…」

そうして二人は、この基地から脱出するべく、出口を求めて歩きだした。

(H25,08,18)



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