1 運命の出逢い



ハルカは、オアシスのほとりにぽつんと座っていた。時刻はまだ昼過ぎである。昼食を食べることも忘れ、彼女は、茫然と座り込んでいた

「っていうか……どうしよう」

このままここでレイフを待つべきなのか?ハルカは考えた。
しかし、レイフからの走り書きには、【運が良ければパルマコスタで会える】と書いてあったのを思い出したハルカは、考え直した。

「パルマコスタへ来いってこと…だよね?」

パルマコスタへはレイフと一緒に、何度か行ったことがある。パルマコスタへ行くには、オサ山道を通り、イズールドから船に乗らなくてはならない。長旅になるだろう。
自分一人だけで、行くことが出来るだろうか――。
装備を万端にしたとしても、厳しいのではないかとハルカは思った。せめて、仲間がいれば…と考え、彼女は思い立った。

「酒屋に行ってみよう。何か依頼があるかもしれないし…ひょっとしたら……」

傭兵仲間で、便乗できる依頼があるかもしれない、と考えたハルカは、酒屋へと足を運んだ。




*****




昼過ぎだというのに、酒屋には数人の客がいた。
そのほとんどは傭兵だったが、中に一人、旅の格好をした人がいる。その人は興奮したような口調で、酒屋の全員に対して大声で何かを言っていた。
なんだろう――?疑問に思ったハルカは人の輪に近づいて行った。


「――そうなんだよ!ついに、神子様が神託をお受けになったんだ!

「それは本当かい?!」

レイフに気のあるウェイトレスは真っ赤な口紅をあんぐりと開けて旅人の話を聞いている。
傭兵達もにわかには信じられない、という表情をしていた。

「嘘じゃねぇって!現に、神子様達御一行は、世界救済の旅に出られたと聞いたよ。そろそろ、ここいらに到着しているはずだ。いや、もう着いちまったかもしれねぇ」

「良かったなぁ…これで、世界が平和になる…」

「何言ってるんだ、これからだろう?」


賑やかなその話の内容を聞いたハルカは目を見開き、口を半開きにしてしまった。とても驚いたのである。
何故なら彼女は、ここが本当にゲームの世界であるという認識を持てずにいたからだ。
だがしかし、今の話を聞く限りでは、どうやらここは本当に、あの「テイルズ・オブ・シンフォニア」の世界であるらしいということを、認識しないわけにはいかなかった。


(神子……神託を受けた……世界救済の旅ってそんな………まさか本当に……?)


「リアルに現在進行形……ってヤツ?」

そう呟くとハルカは頭を抱えた。
冗談ではない。そんな世界に関わり合いになる技も技量も持ち合わせてはいない。
第一に、一人でパルマコスタにすら行けない、精神的にも技術的にも未熟なハルカである。レイフに言ったら怒られそうだが、ハルカはまだ、一人旅をする自信はなかったのだ。

皆はハルカが入ってきたことにも気づかず、いまだ、神託を受けた事、世界救済の旅について話している。何度話しても嬉しいらしい。
ここ、トリエットは直接被害をこうむった事はないようだが、ディザイアンの卑劣な行為は、皆許すまじと思っているのだろう。遠い村では、人間狩りが行われていると聞いている。最近はモンスターというよりも、ディザイアン対策として、傭兵を雇うという人も増えたのだ。


ハルカは溜息を付いた。今の状況では、何を話しても相手にしてもらえなさそうであることを悟ったのだ。

(……後にしよう)

そう思い、ハルカは大通りへと足を運ぶことにした。そこには掲示板があり、傭兵募集などの情報が貼ってあることが多いからである。


(そこに、レイフが急に出かけたことのヒントとかあるかもしれないし…)


ハルカは特にそれ以上、何も考えてはいなかった。
そう、彼女は忘れていたのである。すっっぽりと、記憶が抜け落ちていたと言ってもいい。

ハルカが大通りへと向かったことで、彼女の運命は大きく変わっていくことになるのだった。




*****




大通りへと出ると、何かがぶつかり合う音がした。それはまるで、剣がかち合うような音で、普通なら大通りでそんな音は聞こえない。

(もしかして戦闘――?)

そう思い、駆け出したハルカが見た光景は、信じられないものだった。



真っ赤な服を着た少年が、二本の剣を使って闘っている。
敵はどうやら、鞭と弓を装備しているらしい。少年はなかなか検討していたが、敵に押され気味のようだ。剣筋が荒いなと、ハルカは思った。

(んー…赤い服…二本の剣……ってかあれって…!)

「ロイド!大丈夫?!」

甲高い声が聞こえる。子供の声だ。どうやら仲間がいるらしい。赤い服の少年をロイド、と呼んだ子供は、銀髪で、何故かケンダマを持っている。

(っていうかあれジーニアス!!)

ゲーム世界そのままの登場人物で、シチュエーションも全く変わっていないという事実にハルカは一瞬気が遠くなりかけた。

(やっぱりここって……シンフォニアの世界なんだ…)

ハルカはここにきて、ついに現状を受け止めたのだった。
ゲーム世界のキャラクターが生で動いており、しかも戦闘をしているのである。信じないでいられるわけがない。

(脇が甘いよロイド。隙が多いなぁ……)

見ていてハラハラする戦闘だった。ジーニアスの魔法に助けられているとはいえ、魔法は詠唱の時間もかかる。ロイドのようなパワー型の戦闘では、ヒット&ウェイで戦うことが重要なのだが、ロイドは完全にパワー押しの戦闘をしている。
敵には飛び道具を持っている者もいるのだ。それではやられてしまう―――とハルカが思った瞬間、弓を持った敵がロイドに向かって矢を発射しようとしているのを、ハルカは見た。


ハルカは、完全に何も考えてはいなかった。
怖いとか、関わり合いになりたくないという思いは、何処かに行ってしまった。


気が付くと、ハルカは走っていた。剣を鞘から抜き、いつでも攻撃できるようにしつつ、間合いを詰める。


(間に合うか…ッ?)



ギィンッ


左手に衝撃を感じたハルカは、盾で弓矢の攻撃を防いだことを確認した。そのまま、弓を持った敵に向かい剣を振るう。

「?」

ロイドの探るような視線を感じながら、ハルカは言った。

「油断しないで!横!」

「うわっ」

ハルカの警告に慌てて剣を構え防御をするロイド。それを横目に見つつ、ハルカは剣を振り上げる。

「魔神剣!」





*****




戦闘が終わると、ハルカは剣の血糊を一振りし、鞘にしまった。そうしながら、ここをどう切り抜けるかを必死になって考える。

(今なら何も言わないでトンズラ出来るはずよね……逃げよう!)

そうこっそり思いながら逃げようとしたハルカは、ロイドに呼び止められてしまった。

「さっきは助かったぜ、ありがとう……で、アンタ、誰?」

「…………」

(やばい…かんじ…)

「名乗らないのは、名乗れない理由がある、ってことかよ?」

ロイドの声はハルカのことを不審者だと言っていた。
ジーニアスがケンダマを持ったまま近づいて来る。

「ロイド…」

ジーニアスの声に、ロイドは再度剣を抜いた。

「お前…敵―――」


その瞬間、ハルカとロイドの全身に痺れるような衝撃が走り、二人は声をあげる間もなく地面に倒れた。


(え?っていうか…このパターンって完全に……ありえな……い……)


近くにドサリ、と何かが倒れる音を聞いたのが最後、ハルカは意識を失ってしまったのだった……。


(H25,08,01)



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