再び目を覚ました時には、保健室の窓から差し込む光は橙色だった。
(起きないと、)
ゆっくり起き上がると額の上から何かが落ちた。 それはタオルだった。
周りを見渡しても誰もいない。
家に帰るにも荷物を部室に取りに行かなければいけない。
ベッドから下りて保健室の扉に近付いた。
「このタオル、左之先輩のかな。」
落としてしまったタオルを手に持って、私は部室へと向かった。
――
<ガラッ、>
「・・・?蒼井?」
「どうしたの左之さん。」
「あいつどこ行ったんだ?いねぇぞ。」
「えぇ?!どうすんのコレ。」
―――――
廊下を歩いて部室へと向かう。
それはいつもなら楽な行為だ。だけれど、寝起きのせいか足元が覚束ないのだ。ふらふらとしてしまう。
「あと、ちょっと。」
時々立ち止まっては深呼吸、の繰り返し。
部室まであと少しというところで また、出会ってしまった。
「・・・。」
部室をじっと見る男がいた。それはあの、失礼なことを言った薄茶色の髪の男だった。
「何か、用ですか?」
彼は私の声を聞いた途端、ほんの少し肩がびくついた。そして何事もなかったように私の方を見た。
「あぁ。この前の写真部の人。」
「はい。」
「突然だけどさ、写真部って面白い?」
「は・・」
本当に突然だ。
また何か嫌味でも言われるのかと思っていたから間抜けな声が出てしまった。
「何、その意外そうな顔。」
「・・・。写真部、面白いですよ?」
「あれ。無視するんだ。」
全く。この人はやっぱり嫌味しか言えないのか。
<バタバタ、>
「?」
すると急に後ろの方から足音が聞こえた。
それと共に声が聞こえたので私は振り返る。
「写真部、おもしろいのか。」
彼はまだ何か呟いていた。
「あ!部長さん!!」
だんだんとこちらに向かってくる姿。よく目を凝らしてみるとそれは藤堂くんと左之先輩だった。
そして彼らは目の前にやってきた。
「ど、どうしましたか?」
「どうしたもこうしたも勝手にいなくなっちゃ駄目だろ。」
「へ?」
「病人だろうがお前は。」
「あ、・・すみません。荷物を・・って思って。」
「って、総司どうしたんだ?」
(”そうじ”?)
左之先輩は私の後ろにいる人物にそう声を掛けた。「あれ、総司じゃん。」どうやら藤堂くんも知っているようだ。
「2人が写真部に入ったって聞いたから、部室はどんなところかなって思って。」
「へぇ。珍しいな。」
「それよりお前等知り合いなの?」
藤堂くんは目を丸くさせて私と”そうじ”を交互に見る。
「知り合いではないね。会うのは2回目だよ。」
私が何か言う前に彼が答えた。
確かに彼の言うとおりだ。お互い名前を知っていないから知り合いとは言えない。
「そうだ。自己紹介しようか。」
にこりと見た目爽やかな笑顔を私に向けて彼は言う。
・・まぁ、いつまでも”彼”呼びするのもどうかと思っていたし。
「そうですね。私は3年の蒼井ゆきです。」
「僕は3年の沖田総司です。同い年だね。」
再びにこりと私に笑いかける彼・・もとい沖田総司。
・・・”沖田総司”?
私の中でぐるぐると何かが回って、
「お・・きたさん・・?」
口が勝手に動いていた。
――――
「ちょっと待ってよ!なんで僕が総司の補佐やんなきゃいけないの?」
「お前くらいしか総司の面倒見れないだろ。」
「せっかく4番組組長になったのに。」
「我慢してくれ。」
「うー。」
「我慢してねー。」
「!」
「総司!」
「駄目でしょ。僕のことは”沖田組長”って言わなきゃ。」
「・・・。沖田さんで十分さ!」
<バタバタ・・>
「・・・。」
「”沖田さん”、か。」
「こっちも我慢だよな。」
「はは。今回は僕も土方さんと同意見ですよ。」
「いつまでも変わらないままってのは難しいさ。」
――
私は1日に二度も気を失った。
そして気を失っている間に記憶を見たのだ。
記憶を見たというのはおかしいかもしれない。
まるでそこにいるかのような感じだから、過去を”体験”したと言ってもいいかもしれない。
2011/08/19
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