ぷれぜんと | ナノ


”先輩!”


いつも嬉しそうにそう言っていた彼女。
そんな彼女に彼氏ができた。


「あーあ。月子に彼氏かぁ。なんか置いていかれちゃったな」

「そんな・・!私はいつもここにいますよ!」

「いや、言葉通りの意味じゃなくてね」


天然・純粋・真面目なマドンナに対してわたしはというと馬鹿・口悪い・女っぽくない女である。
そんなわたしに彼氏ができるわけがない。学園に女子が二人だけであろうとも、現実はそうなのだ。甘くはない。

―――

「なまえ先輩、会長が探していましたよ」


生徒会副会長である青空颯斗くん。わたしは生徒会のメンバーではないけれど、一樹と親しいというのがきっかけで話すようになった人だ。
そして、「裏番長」だなんて誰かが言ってたけど確かにそうだと思うときがある。


「了解。わざわざありがとう」

「いえいえ」


にこりと笑う青空くんはわたしに優しい。いつだって女扱いをする。こんな言い方すると、してほしくないように聞こえるかもしれないけど女扱いされるのが嫌な訳ではない。苦手なだけだ。


「青空くん」

「はい?」


女扱いをする青空くんに比べわたしの親友はそんなことをしない。いつもわたしのことを下に見ているような気がする。


「なまえ先輩?」


名前を呼んだきり黙ってしまったわたしを不思議に思った青空くんがわたしの名前を呼んだ。
わたし、青空くんに何をしてほしかったの?なんで名前を呼んだ?


「ごめん。なんでもないや」

「そう、ですか」

「じゃあ一樹のとこ行ってくるね」

「はい」


モヤモヤとした気持ちを抱きながら一樹の元へと足を向けた。
・・・と思ったけれど青空くんが気になって後ろを振り返った。


「なまえ先輩?」

「あ、いや、なんでもない」

「そうですか」


青空くんは苦笑してわたしを見た。


「青空くんは優しいよね」

「え?」

「ほら、女の子扱いしてくれるよね。わたし、あまり女扱いされていないからさ。苦手に思っちゃうんだけど青空くんのは自然なんだよね」

「そうですか?敬語口調っていうのもありますかね。でもなまえ先輩はちゃんとした女性ですよ」


青空くんの言葉に照れてしまう。顔が火照ってきたな、と思ったとき誰かに襟を引っ張られた。


「遅い」


それとともに低い声が頭上から聞こえた。


「か、一樹っ」
「一樹会長」

「颯斗に頼んだ意味がねぇじゃないか」


頭上から聞こえる声に思わず眉を寄せた。
いま、いい感じだったのに。女扱いについて語っていたのに。


「颯斗、悪いな。もう行っていいぞ」

「はい。ではお二人ともお気を付けて」

「え。待って、青空くんも一緒に!」

「お前の意見は聞かない」

「ええっ!」


わたしと一樹の言い合いを青空くんはにこにことしながら見ている。
そしてその場を去っていってしまった。


「ほら、行くぞ」

「・・・」


わたしは一樹に襟を掴まれながら歩き始めることになった。


「探してたって聞いたけど?」

「なんだよ。まだ怒ってんのか?」


連れられてきた場所は生徒会室。
その真ん中に置かれている二つのソファーに向かい合って座った。


「まぁ、少しはね」

「そうか」


だって、青空くんは女扱いを自然にしてくれる。それについて話しているときに女扱いをしない親友が来たんだよ?ちょっとイラっとするよ。
なんであんたはいつも上から目線なのかって。


「俺も悪かったって思ってる」

「・・・」

「東月から聞いてたけどやっぱり信じたくなくて」

「・・・(錫也?)」


突然一樹の口から出てきた知り合いの名前にわたしは動きを止めた。


「俺だって・・・想っているから」

「ちょ、ちょっと待って!」

「待てない」

「待とう!ちょっと待とう!」

「待たない」

「ちょ、一樹!」


わたしの言葉も聞かずに一樹はソファーを立ち上がりわたしの目の前に来た。そしてわたしのことを壊れ物を扱うみたいにゆっくりと抱きしめてきた。
極めつけはいつもは見せない真剣な表情。


「一樹」

「想ってるんだ。ずっと・・・三年間ずっと」

「一樹、何のこと言って」

「颯斗のこと好きなんだろ?知ってるさ。だけど俺だってなまえが好きだ」


いつもは「お前」とか「みょうじ」とかしかわたしのことを呼ばないのに。ずるい。こんなときに名前で呼ぶだなんて。
何も言えなくてわたしは俯いた。それをどう読み取ったのか、一樹は視線を合わせようとわたしの身体を固定しようと腕で押さえつけた。


「俺の目を見ろ」


無理だ。恥ずかしすぎて目を合わせたくない。
心の中でそんな悲鳴をあげながら必死に目を合わせないようにした。


「わたし、青空くんのことは良い友達としか思ってないから」

「え?」

「たぶん錫也は一樹をからかっているんだと思う」

「あいつ・・・!」


悔しそうに唇を噛み締める姿が可笑しくて笑ってしまう。


「お前も何笑ってるんだよ。とにかく返事だ。聞かせろよ」

「は?」

「俺は一度しか言わない」

「え、そんな」

「・・・だから、お前が好きだ


目が合って言われた言葉に頬の温度がさらに上がったのが分かった。


「ずるい」

「それはいつものことだ」


嬉しそうに言ってくる一樹にわたしも目を合わせて返事をした。


▼唯さまへ
大変遅くなりましてすみません!時間をかけながら作ったお話のため、ちゃんと話がつながっていれば←
気に入っていただけると幸いです。何かありましたら遠慮なくおっしゃってください!リクエストありがとうございました

流星 潤
20120819



  



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