「リヴァイ、今日なんか変じゃない?」

「…そうか?」

いつもに増して顔色が悪いようなリヴァイの顔を心配そうに覗き込む。お互い怒涛の仕事量をこなし、何とか定時上がりをもぎ取った二人はリヴァイが選んだ店で向かい合っていた。

「大丈夫?今日も大変だったんじゃない?」

「大したことねぇよ。仕事中は奴らも声を掛けてこねぇからな」

本当は、朝来た時には既に机の上に置かれていたチョコレートやらプレゼントをやらを纏めるのにひと手間掛かったことは話さないでおいた。変に勘違いさせるのも、気を遣わせるのもしたくない。

「モテる男は大変だねぇ」

「…面倒くせぇだけだ」

それでも同じ社内にいる以上、ナマエの耳にも話は入るだろう。何も気にしていないような彼女の様子に、やはり自分は男として見られていないという事実を突きつけられたようで軽く絶望する。だがそれでも、今日はちゃんと言葉にして伝える決意をしてきたのだ。例え想いが叶わなくても想い続けることは許して欲しいと、見合いなんかやめちまえと縋ってしまいそうだ。

「それにしても…個室なんて珍しいね」

「まぁな…今日は趣向を変えるって言ったろ」

「そうだった。いつもありがと」

最近オープンしたばかりのこのフレンチレストランの個室を珍しそうに見回しながら、ナマエが嬉しそうに目を細めた。
いつもはなるべくバレンタインのような特別感を出さない店を選んでいたが、今日は敢えて二人きりになれる個室を予約したのだ。リヴァイ相手だから良いが、他の男とこうした個室で二人きりになるなよ、と説教じみたことを言いそうになった口を慌てて噤む。もしナマエにそんな相手がいたと分かった日には寝込む自信があった。
メイン料理の鴨肉を食べたナマエが感動したように頬に手を当てた。その蕩けそうな表情に、顔には出さないがリヴァイも大満足だ。
だがあとはデザートを待つだけになった時、ナマエがおもむろにスプーンを置いたその思い詰めた表情にリヴァイは訝しげに眉を寄せる。

「ねえリヴァイ、いつもほんとにありがとね」

「なんだいきなり…。礼を言うのはこっちの方…」

「ううん、違うの。今日のことだけじゃなくて…入社してからずっと、気に掛けてくれてありがとう」

「…ナマエ?」

どこか泣きそうなナマエの笑顔に心臓が嫌な音を立てる。ハンジから聞いた『お見合い』の文字が、脳内で点滅した。

「入社した時からリヴァイはすっごく優秀で…ハンジもそうだけど、二人には迷惑ばっかり掛けちゃったよね」

「んなことねぇよ。それを言うなら俺の方だろ。総務と喧嘩しそうになったのをお前ら二人が仲介に入ってくれたこともあったな」

「うわ、懐かしい…!でもあれも、新入社員の残業の付け方をリヴァイが総務に訴えてくれたからじゃない」

「…そうだったか」

「リヴァイはいっつもそうだよ。私が困ってる時は絶対助けてくれるし、課長に昇進してからも変わらず接してくれて…本当に感謝してるんだ」

「ナマエ…?いきなりどうしたんだ」

「リヴァイ…。バレンタインも誕生日もこうやって私やハンジと過ごしてくれるけど…本当は一緒に過ごしたい人がいるんじゃない?」

「は…?」

予想外の言葉に一瞬固まってしまう。リヴァイの誕生日はクリスマスと重なっているるからか、バレンタイン以上に誘いが激しくなったこともある日だが、変人と名高いハンジが毎度賑やかにリヴァイを連れ去ることもあり、その日は無理なのだと暗黙の了解になっている。そしてその祝いの場には、もちろんナマエの姿もあった。
固い表情でリヴァイを見つめるナマエの脳裏に、今日の昼間聞いた会話が蘇った。トイレで化粧直しをしていた先輩方に囲まれたナマエは、リヴァイが毎年バレンタインに姿を消すことを問い詰められたのだ。

「ナマエ、リヴァイ課長と同期なんでしょ?何か知らないの?」

「んー同期といってももう立場は全然違いますし、知らないですよ〜」

「恋人と過ごすのかと思いきや、そんなのはいないって言ってたらしいし。ほんっと謎よね」

「あ、でも、私聞いたことあるよ?ほら、前にエルヴィン副社長が飲み会に来たことあったじゃない?その時にリヴァイ課長のこと聞いてみたのよ!」

「え…」

「え、何それ!聞きたい聞きたい!」

ぱあっと顔を輝かせる先輩と得意げに眉を上げるもう一人の先輩から逃れられず、ナマエは仕方なくその場に留まった。あまり聞きたい話題ではない。

「リヴァイ課長って恋人とかいるんですか?って聞いたらね、エルヴィン副社長にも笑って誤魔化されたわ」

「なーんだ。エルヴィン副社長って、プライベートでもリヴァイ課長と仲良いんでしょ?」

「そうみたいね。でもその後、ミケ副社長と話してるのが聞こえちゃったのよ!」

興奮気味の彼女が話す内容を纏めると、『リヴァイは相変わらずか』と聞いたミケに対し、エルヴィンは苦笑しながら肩を竦めるジャスチャーで応えたという。そして。

「『彼女を大切にするあまり行動に移せないのがリヴァイのもどかしいところだな』って!そう言ってたの!」

「えー!じゃあそれって、リヴァイ課長に好きな人がいるってこと!?」

「そうそう!誰なんだろう〜!」

一通り騒いだ彼女たちが立ち去ったのを見送り、ナマエは鏡に映った自分を眺めていた。リヴァイに好きな人がいる可能性を考えたことがないわけではなかったが、こうして突きつけられると思いの外ショックが大きい。
彼女たちの話がどこまで真実かは分からないが、リヴァイに大切に思っている人がいるのは事実なのだろう。バレンタインや誕生日も、本当はその人と過ごしたいのではないだろうか。

「…やっぱり潮時、だね」

コツン、と額を当てた鏡の向こうでは、弱々しい瞳の自分が見返していた。


そんな今日の会話を思い出していたナマエは、驚いたように目の前で硬直しているリヴァイを緊張した面持ちで見つめ返した。
今までお互いの恋愛に触れたことはない。今、大きく踏み出したこの一歩を逃したくなかった。

「ごめんね、噂で聞いただけなんだけど、リヴァイにはすごく大切に思ってる人がいるって」

「…なんだその噂は」

「あの、エルヴィン副社長がチラッとお話されてたことがあったみたいで。それで…」

「…あの野郎」

唸るようなリヴァイの声音に、本当のことなのだと瞬時に理解した。深く眉間に皺を寄せるその表情が、どこか照れ臭そうなそれに見えて心臓がドクドクと音を立てる。

「なんかごめんね…。全然気付かなくて…」

「は?なんでナマエが謝る」

「いや、だって…リヴァイとその人がどんな関係か分からないけど、貴重なイベントの日に私たちが一緒に過ごしてたなんて申し訳なくて」

「あのな。俺は俺がそうしたいからお前たちと過ごしてただけだ。ナマエが謝る必要はねぇだろ」

「…うん、ありがと」

用意していたチョコレートは、今年も無駄になってしまいそうだ。最後だからと4年ぶりに手作りした想いを告げるための甘さは、この後またナマエの腹に入るのだろう。チョコレートを渡して、ちゃんと気持ちを伝えようと決意していた気持ちが一気に萎んでしまう。
それでも己を奮い立たせて勢いよく顔を上げたナマエの目に、初めて見る穏やかさを湛えたリヴァイの顔が飛び込んできた。

「リヴァイ…?」

「…そうだな。ナマエの言う通り、俺にはすげぇ大切な奴がいる」

きっぱりと告げられた言葉に目の前が真っ暗になった。それでも5年間の想いにサヨナラを告げるため、ナマエは無理やり笑みを作る。

「やっぱり。どんな人なの?」

「初めて会ったのは俺がこの会社に入社した時だな」

「えっ…会社の人、なんだ…」

懐かしむように表情を緩めたそんなリヴァイの顔も初めて見るものだ。会社の人という事実と共に、衝撃を受けたナマエが震えそうになる拳を握り締めた。

「あぁ。まぁなんつーか…不器用でいつも一生懸命で、とにかくいつでも前向きで明るい奴だ。そいつの側にいるとこっちまで明るい気分になってくる」

「そっ、か…」

「…俺がエルヴィンに引き抜かれて入社したのは知ってるな?」

「え?う、うん…」

「あいつとは古い知り合いでな。他の会社でフラフラしていた俺を見兼ねて誘ってもらったんだ。だからまぁ…恩人っちゃ恩人だな」

「そうなんだ…仲が良いんだね」

リヴァイの思い出話に強張っていたナマエの表情が徐々に解れていく。何をどう聞いたのか分からないが、ナマエが勘違いしている今を逃したくないと、渇いた唇を舐めて再び口を開いた。

「営業経験はあったが、この会社では俺だって新入社員と同じ立場だ。だから一から学ぶつもりで、お前らと一緒に研修を受けさせてもらった」

「でもリヴァイ、最初っからすごく出来てたじゃない。私なんて助けてもらってばかりだったよ?」

「一応社会人経験者ではあるからな。俺のクソみてぇな経験が、これからの仲間の役に立つなら悪くねぇと思ってな」

「…うん。すっごく勉強になった」

「ヘッドハンティングされたとなれば、社内の奴も色眼鏡で見てくるだろ。特段吹聴する話でもねぇし、黙っとくつもりだったんだが…」

どこからか洩れてしまったらしい。その後はリヴァイが危惧した通り、面倒なことは少なからずあったという。

「今まで中途入社の扱い辛い奴だと俺のことを見ていた奴らが、途端に手のひらを返したこともあったな。エルヴィンにそこまで影響力があるとは思わなかった俺の誤算だが」

「確かにあの頃、リヴァイの周りは何かと騒がしかったね」

「課長に昇進すりゃコネだとかなんだとか騒ぐクソどももいたな。ま、元々役職付でヘッドハンティングされてるから間違っちゃいねぇ話だ」

「でもそれもリヴァイの実力でしょ?営業成績だってトップなんだし、周りの嫉妬じゃない」

「…お前はいつもそうだな」

「え?」

ぽつりと呟いたリヴァイに首を傾げるナマエ。フッと息を吐いた彼の手が、ワインへと伸びた。

「周りの雑音は気にもならなかったが、いい気分がしなかったのは確かだ。だがナマエもハンジも、そんなことは気にせずに今まで通り接してくれて助かった」

「そりゃあ…リヴァイはリヴァイだし…」

「…正直救われた」

漏らされた本音に今度はナマエが目を見張る。いつも飄々としていて何事にも動じないリヴァイが見せた初めての弱音に、キュッと胸が締めつけられる気がした。

「あとはナマエも知っての通りだ。玉の輿だかなんだか知らねぇが…クソみてぇに香水くせぇ女たちも群がってきやがる」

「リヴァイ…言い方…」

「本当のことだろ。どうせ肩書きや金でしか男を見ねぇ女たちだ。興味もねぇ」

「…でも、リヴァイの好きな人はそうじゃないんでしょ?」

遠ざかったように思えた話題を引き戻したのはナマエの方だった。早くこの想いに引導を渡して欲しいような、それでも知りたくないような両極端な気持ちに引き裂かれそうだ。

「そうだな。そいつは…人一倍負けず嫌いで泣き虫なくせに、いつも強がって笑ってやがる」

「…頑張り屋さんなんだね」

「あぁ。だから俺はそいつがいつでも泣ける場所になりてぇと、そう思ってずっと側にいた」

「そこまでリヴァイに想われるなんて、幸せな人だ」

羨ましい、と続きそうだった言葉を呑み込んだ。
うまく笑えているだろうか。唇は震えていないだろうか。チョコレートも渡せず、想いさえ伝えられずに砕け散った想いをかき集める気力は、今はなかった。

「幸せなのかは分からねぇが…そいつが笑顔になるためなら、俺はなんでもするだろうな」

「もう…そこまで惚れてるならちゃんと告白しなよ。まだなんでしょ?」

「あぁ、まだだ。俺はそいつの優しさにつけ込んで、なるべく俺以外の男が近寄らねぇよう、他の男とどうにかならねぇように必死だったからな」

「そんな回りくどいことしないでちゃんと…」

「お互いの誕生日やバレンタイン、春は花見、夏は花火大会、秋は紅葉狩り…あぁ、初詣も誘ったな。全部口実をつけてだが」

「え…?」

羅列されたイベントごとを耳にしたナマエの心臓がドクン、と大きく波打った。それはナマエがリヴァイと、時にはハンジも含めて過ごしてきた時間の一部分だ。だがハンジはバレンタインを一緒に過ごしたことはない。

「リ、ヴァイ…?」

「…バレンタインっつーのは女が男に愛を伝える日、なんだろ?少なくともこの国では」

「あ、うん…えっと…」

「だから…俺はそいつのその時間を奪って、他の男と過ごすことがねぇように仕向けてきた。俺以外の男に愛を囁かれたらたまったもんじゃねぇからな」

「待って…え?リヴァイ…?」

「そいつは入社当時、数値計算が苦手でな。だが資料が真っ黒になるくらい書き込んで勉強して、誰にも負けねぇように前だけを向く女だ。俺はそんな負けず嫌いのとびきり最高な女に、ずっと惚れている。5年間、ずっとだ」

「リヴァイ…それ…それって…」

「お前のことだ鈍感野郎」

ぽかん、と口を半開きにしたまま固まってしまったナマエにそっと右手を伸ばす。緊張で震えそうになるそれを叱咤すれば、じきに指先が柔らかい頬に触れた。

「…バレンタインなんてクソみてぇなイベントだと思っていた俺が、ナマエからのチョコだけをずっと待ち続けてたって言えば分かるか?」

「え、なに…だって…」

「この日を一緒に過ごす口実を作ればチョコの一つや二つ、お前から貰えると期待していた俺の純情を返せ」

「だ、だってそれはっ…!リヴァイがバレンタインなんてくだらないって…手作りなんて気持ち悪いって言ってたからっ…」

「あ?そりゃあ好きな女から以外、だろうが」

「待って…え、リヴァイ、その、私のこと…」

「…5年前、お前と出会ってからずっとだ。ずっとずっと、ナマエが好きだ」

「ふっ…え…う、うそぉ…」

ぽろりと一筋流れた涙が触れたままだったリヴァイの人差し指に辿り着く。それをそっと拭い、今度は右手でしっかりとナマエの頬を覆った。

「…見合いなんてするな」

「えっ?あ、ハンジっ…!」

流れる涙をそのままにしていたナマエが慌てふためいたように、リヴァイの手から逃れようとする。真っ赤に染まった頬がリヴァイの目に鮮明に映った。

「ナマエ…お前が好きだ。見合いなんかすんじゃねぇ。今はまだお前の気持ちは俺に向いてねぇかもしれねぇが…絶対に後悔させねぇから、俺を選べ」

「っ、リヴァイの馬鹿ぁっ…!」

「はっ…?」

とうとう両手で顔を覆ってしまったナマエが投げつけた突然の罵倒に、流石のリヴァイもその三白眼を瞬く。すると涙声のナマエが乱暴に目元を拭い、鞄から取り出した箱をグイッとリヴァイに押し付けた。

「ナマエ…?これは…」

「リヴァイの馬鹿!鈍感野郎はどっちだ馬鹿!」

「は…?オイ、まさか…」

「リ、リヴァイが手作りは気持ち悪いって言うからっ…てかバレンタインなんてくだらないって言うから、私がどれだけ我慢して…馬鹿ぁっ!」

「…待て待て待て。じゃあこれは…」

「…リヴァイの大嫌いな手作り。でも私の気持ち」

今度はリヴァイが驚愕に目を見張る番だった。押しつけられた箱とナマエを交互に見遣り、大切そうにそれをそっと人差し指で撫でる。

「隣、行っていいか」

「…うん」

移動してきたリヴァイが丁寧な手つきで箱を机の上に置いた。泣き止んではいるが、目尻を赤く染めたナマエに向き合ってそっと手を取る。

「これが…ナマエの気持ちだと思っていいのか」

「…うん。リヴァイ、私だって…」


ー5年間、ずっとすきだったの


囁くように落とされたその告白に、堪らなくなって細い腕を引く。胸の中に収めた温かさがこれは現実なのだとお互いに伝えてくれていた。

「…鈍感野郎はないでしょ、リヴァイ」

「馬鹿馬鹿言い過ぎだ、馬鹿」

暫くその温もりを堪能していたリヴァイだが、ゆっくりと名残惜しそうに身体を離してナマエの髪を優しく撫でた。
そのタイミングで、個室の扉が軽いノックの音を伝えた。デザートを運んできた、と告げるウェイターに慌てて目元を拭いそれぞれの席に着く。

「お待たせいたしました。バレンタイン特製ガトーショコラでございます」

「わ、美味しそう…」

やがて運ばれてきたデザートにナマエの目が輝く。リヴァイのところにも同じものが運ばれるが、何を思ったのかそれをナマエの方へと押しやった。

「リヴァイ?食べないの?」

「俺にはこれがあるからな。他のチョコの味を入れたくねぇ」

「あの…そんなに大したものじゃないし、期待するほどじゃないよ」

軽く振られた箱が微かな音を立てる。恥ずかしそうに首を竦めたナマエが気まずそうに唇を噛んだ。久しぶりに作ったチョコレートは例年買っていたものを真似て、紅茶のリキュールを入れてみた。だが出来映えは程遠いものだ。

「それに手作り苦手でしょ?正直受け取ってもらえると思わなかったから…あの、今からでも市販のものを…」

「それこそ馬鹿なこと言ってんじゃねぇ。お前、俺がどれだけこれを切望していたか分かって言ってんのか?」

「え、ええ?」

「チッ…お前が他の野郎どもにチョコを配ってねぇか目ぇ光らせてた俺の身にもなれ」

「え、チョコ?誰にも渡してないよ?」

「だが去年、モブリットに渡そうとしてただろうが」

「あー…そうだったかも。確かその頃、プロジェクトで一緒になってたから。でもハンジに止められたんだよね」

「…それだって俺がクソメガネをせっついて止めさせたんだからな」

「…はい?」

言われて去年のバレンタインを思い出す。ハンジの部下で後輩のモブリットとプロジェクトチームが一緒になった頃で、世話になった礼としてチョコレートを渡そうと考え、何が好きなのかハンジに相談していたのだった。

「確か…モブリットはお返しにものすごく悩む人で、業務に支障が出兼ねないから渡さないでくれって言われたんだっけ」

「…まぁ嘘だがな」

「はっ…!?」

「俺が貰えねぇのにモブリットが貰える意味が分からねぇ」

不服そうに腕を組んだリヴァイを唖然として見つめる。何も答えられなくて、そのままガトーショコラを頬張った。濃厚なチョコレートソースとフランボワーズソースが絶妙でとてつもなく美味しい。

「…心が狭い男は嫌われるよ」

「はっ…ナマエに好かれてりゃ問題ねぇな」

あっさりと告げられた濃くて甘ったるい台詞がナマエの身体を熱くさせた。
ガトーショコラよりも、ナマエが作ったチョコレートよりも、甘くて濃厚になりそうなこれからの日々を思い浮かべながら、二つ目のガトーショコラに手を伸ばした。


-fin


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