冬の寒さも和らぎ、桜が咲く春。私は今日、この家を出る……。

靴を履きゆっくりと立ち上がって、後ろを振り向けば、小さい頃からお世話をしてくれた、おばさんが少し涙を浮かべながら笑っている。
その顔を見て私まで涙が滲む。
いままでこの家で暮らした思い出が鮮明に蘇るのだ。

「行ってきます。」

そう言うとおばさんは行ってらっしゃいと返してくれた。
他にも伝えたいことは沢山あるけれど、それでも今言ってしまえば、絶対泣いてしまう。
私は今日から正十字学園に通うことになっており、当分おばさんには会えないだろう。
というのも、その学校は全寮制で許可なく外出が出来ないのだ。
寂しさがこみ上げてきて、泣きそうになるのを必死にこらえて、おばさんの顔をもう一度見るとゆっくりと扉を開けて外に出た。


私は幼い頃から、悪魔と呼ばれる類のものが見える人間であった。
街を歩けば当然のように、漂っているものもいれば、暗闇に潜む者もいるのを何度も見てきた。
怖い思いだって何度もしてきた。
そんな悪魔達を退治していく、祓魔師という職業があるのだ。
私は怖いのも痛いのも嫌いだが、自分の身くらい守れるようになりたいとも思う。その結果私は家を出て、祓魔師になるための勉学に励むことを決意し、今に至るのである。
その祓魔師になるための塾が正十字学園にあるのだから、家を出るのもしかたがない。
もちろん、正十字学園に通わずとも、その塾には入れるのだが、父も母も、姉でさえもその学校に行ったのだから、もうこれは自分も行くしかないのではと思うのは、おかしなことではないはずだ。

電車に乗りこみ、何駅か行くと徐々に近づく大きな街。そして、見える学園に胸が躍る。

私は今日からここで高校生活を送るのだ。
駅名のアナウンスが流れると、私はゆっくりと扉に近づき、電車を降りた。


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