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「...プッ!なによクーパー、新手の尋問ツール?」
「今すぐやめなさい、不気味だから」
爽やかに晴れ渡ったそれは数日後のオフの日のこと。
テラスカフェのお気に入りの場所でお茶の時間を楽しんでいた女性教官たちは、長い耳を揺らめかせるハンサムに笑顔を見せた。
「よっ、お二人さん。返しに来たぜ、これ」
頭からウサギ耳をはずし、太股のポケットから黒いポンポンを取り出してテーブルの上に置くと、クーパーは椅子を引いて女たちの前に座った。
それと同時にターナーとオデッサは、嫌味なほどに整った青年の顔を覗き込んで声を低くする。
「どう?ちゃんと受け取った?サージャント・ミッヒからのバースデープレゼント」
「やっぱあんた方の入れ知恵だったんだなあ!」
クーパーはため息をついた。
「超ぶきっちょなサージャント・ミッヒがあんな冴えたこと思いつくはずないし、こいつはハロウィンパーティーでオデッサが付けてたのを思い出したんだ」
「で、どうだった?気に入ってくれたかしら、私たちのアイデア」
「気に入るも気に入らないも....スゲェ嬉しかった。今までで最高のバースデープレゼントだ」
そして、凝った彫刻をほどこした銀のリングに飾られた指先で、ふわふわのポンポンをいじりながら付け加える。
「残念ながらミッヒーちゃんには逃げられたけどね...まさに脱兎のごとく」
「あら、そうなの?」
「じゃ何をもらったっていうの?」
ターナーとオデッサはいぶかしげ。
すると、ポンポンから目を上げたクーパーは、抜けるようなスカイブルーの瞳で女たちを見つめると、この上なく優しい微笑みを浮かべたのだった。
「初めてだったんだ、あいつからファーストネームで呼ばれるのは」
風が頭上の梢をざわざわ揺らしながら渡ってゆく。
演習場から遠く響いてくる、タタタタタ...という乾いた射撃音を除けば、ヨーロッパのどこか小さな街にバカンスにでも来ている気分になりそうなおだやな午後。
三人の若者は頬にひんやり冷たい空気を感じながら、とりとめのないお喋りに興じるのだった。
その時、ルビー色のザクロジュースに満たされたグラスからふと目を上げたターナーが、あわてて目配せした。
「噂をすればなんとやら。ほら、あそこにミッヒが...」
彼女の指さした先には、イランの雑貨屋のオヤジさんから贈られたという、深紅のバラの花が描かれたマイカップを片手に、ふらふら戸外にさまよい出てきたハーネマン。
いつもと変わらずまるで夢の中を歩いているような足どりで、クーパーとターナー達には全く気付いていない様子。
だが、六つの瞳で穴があくほど見つめるうちに、ようやく不審な視線を受け止めたらしい。
森の中で不意に人間に出くわしたシカのように、大きな目でじっとこちらを見返してきた。
「こっちに来ないのかなあ」
ターナーが大きく手を振って手招きすると、不安げな様子でキョロキョロあたりをうかがっている。
「困ってるみたい」
「素直じゃないわね」
「あれこれ深く考えすぎなんだよ」
その狼狽ぶりを目の当たりにして、三人は吹き出すのをこらえるのに必死である。
ふと悪戯心をおこしたクーパーが、黒いポンポンを右手に高く掲げて満面の笑みで手を振ってみせた。
すると顔を引きつらせたハーネマン、びっくりした拍子に大事なカップを手からぽろりと落っことしてしまった。
きっとあわてて拾い上げているのだろう。白い頭がテーブル下に隠れたと思ったとたん、テーブルが一瞬浮き上がって...
どうやら立ち上がる時に勢いよく頭をぶつけたらしい。
次に姿を見せた時には、顔をしかめて頭を押さえながらテーブルを蹴りつけていたが、若造たちの注目を浴びていることを思い出したのだろう。憎々しげに中指を立ててみせると、プンプン怒りながら行ってしまった。
「...あーあ、いい年してほんっとに不器用ねえ!」
出たり隠れたりのあわただしい独り芝居を、頬杖をついてじっと鑑賞していたターナーが、しんみりした調子で言った。
「不器用なくせして超負けず嫌い」
「ひねくれ者で性格は最悪」
マドレーヌを口に運びながらオデッサがしれっと言ってのける。
「ムカつくくらい気まぐれでもあるぜ」とニヤニヤしながらクーパー。
「すぐキレるし」
「協調性ゼロだし」
「人間よりも兵器大事だし」
「俺のバースデーすら忘れちまう」
「バースデー...バースデーかあ...ねえクーパー」
その時、ターナーのとび色の瞳が、素敵なことを思いついたと言わんばかりに輝いた。
「いつなの?サージャント・ミッヒのバースデーは」
「え?あー、来月のXX日」
「私いいこと思いついたんだけど、こういうのってどうかな」
「あ、それはイケる!」「ちょっと面白いかもね」
「なら早速ポーとブッチョと曹長にも頼んで...」
間もなく凍てつく季節へと向かう晩秋の太陽は、額を付き合わせてああだこうだとサプライズイベントの戦略を練る三人の若者の、ブルネットと、黒と、ブロンドの髪をおだやかな光で照り輝かせていた。
<THE END>
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