土沖/転生パロ
死ぬ瞬間のことはあまり思い出したくないし、第一もうろくに意識もなくて、ずっと朦朧としていたからほとんど覚えていないんだけど、あれはまるで眠るような感じだった。
眠っちゃいけない、でも気持ちいいから寝てしまいたい、そんな感じ。
何で突然そんなことを思ったかと言うと、居眠り中にふと昔の夢を見たからだ。
昔の夢を見ることは何度かあった。
でもそれは、物心つく前の断片的な記憶のように、大体が不鮮明で朧気だった。
ここまではっきりと思い出せたのは久しぶりだ。
久しぶりに、最期のことを思い出した。
ふわふわしてて、気持ちよかったなぁ。
気持ちいいなんて、何だか場違いな感情だけど。
実際、今までずっと身体の中で燻っていた痛みやダルさなんてものが全部消えて、重たい束縛から解放されるのはすごく気持ちよかったんだ。
ただ一つ、何か痛みを感じたとしたら、それは愛する人を置いて逝くことに対するものだったかもしれない。
土方さんは、僕が死ぬその瞬間まで、ずっと傍に居てくれた。
今まで一緒に過ごせなかった時間を埋めるように、本当にずっと。
本人は「ちょっと目を離した隙に僕が逝っちまったら嫌だから」と言っていたけど、寝る前も、寝ている間も、朝起きてからもずっと土方さんが一緒に居てくれるのは、すごく嬉しいことだった。
だってそれは、僕の夢だったから。
新選組副長で、寝る間も惜しんで働く土方さんとは、一生絶対にできないことだろうなぁって諦めてたから。
何かもう、夢叶っちゃったんですけど。って思った。
まぁでも、土方さんとあそこに行きたかったとか、あれをしたかった、あれを一緒に見てみたかったとかいう夢は、際限なく残ってたけどね。
けど、僕の最期は間違いなく幸せなものだった。
最期の最期まで、土方さんが僕を呼ぶ、総司っていう声が聞こえていた気がするし。
その温もりに、身体中が包まれていたしね。
だからこそ、僕は思うんだ。
もしももう一度会うことがあったら、彼に謝りたいって。
僕は、最後まで土方さんを支えてあげるって決めてたのに、支えてあげるどころか、一緒にいてあげることすらできなかった。
土方さんを一人遺して、先に死んでしまった。
…絶対に、土方さんを酷く苦しめてしまったと思うんだ。
僕は、土方さんの最期すら知らないんだから。
だから、土方さんに謝りたい。
僕だってずっと一緒に居たかったんだけど、先に死んだりしてごめんなさいって。
そしたら僕、やっと救われる気がするんだ。
……まぁ、もしも会えたら、の話だけど。
黒板を叩く白墨の音を聞きながら、僕は再び机に突っ伏した。
もう一度、土方さんの夢を見られたらいいなぁって思ったから。
何となく、土方さんに会いたくなっちゃったんだ。
現実には居なくても、夢の中でなら会えるからね。
僕はそっと目を閉じた。
あぁ、いつになったら本物に会えるんだろう。
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