bookシリーズ | ナノ


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・「十年目の桜」のこぼれ話
・何の萌えもない








そのうちに、桜より一足早く、梅が咲いた。


近所の神社の参道に咲いていたのを、誰も見ていないのを良いことに、仕事帰りに折ってきた。


総司は梅の花は好きだろうか。

桜の花ももうすぐだと、元気づけてやりたい。


そう思い、総司の家に寄り道した。


「おぉ、トシ!いつも悪いな」


出迎えてくれた近藤に、土方は労いの言葉をかける。


「近藤さんこそ、看病ばかりで疲れんだろ」

「いや、いいんだよ。総司と一緒にいられるからな……それよりほら、早く顔を見せてやってくれ」


急かされながら寝室へ行くと、布団にくるまって小さくなっている総司が視界に入った。


「寝てんのか?」

「さぁ…?……ついさっきまでは起きていたんだが…」


土方は足音を立てないように近付くと、そっとその顔を覗き込んだ。


「あぁ……寝てんだな」


少し残念だった。

仕方なく、手折ってきた梅の花を枕元に置く。


「総司、早く元気になれよ。そしたら花見に連れて行ってやるからな」


一度だけ茶色い頭を撫でてから、土方は部屋を後にした。











目が覚めた。


「………ん?」


枕元に、眠る前にはなかったものが置いてある。

梅の花。
すごくいい香りだった。


何となく、あの人かなぁと思う。

根拠はないけれど。


「お、総司。起きたのか」


近藤が部屋に入ってきた。

声を出すのが億劫だったので、目で訴える。


「ん?どうした?……あぁ、その花か!それはな、トシが持ってきてくれたんだ」


やっぱり、と思った。

こんなことをしてくれるのは、あの人しかいない。


「土方さん、来たんですか?」

「あぁ、すぐ帰ってしまったがな」

「何だ……起こしてくれれば良かったのに」

「いやぁ、総司がよく眠っていたからな。起こすのは可哀想だと思ったんだろう」


ふーん、と口を噤む。


「近藤さん、今度土方さんに会ったら言っておいてください―――花は手折っちゃダメですって」


そう言うと、近藤は大きく口を開けて盛大に笑った。


「あっはっは!確かにそうだな!枝ごと切るのは、いくら何でもいかんよなぁ」

「…花だって、生きてるんだから」


総司の言葉を聞いて、近藤は途端に悲しそうな表情になった。

恐らくは、総司の寿命のことを思ったのだろう。


「桜が咲いたら、トシと三人で見に行こう、な?」

「はい」


元気づけようとしてくれている近藤を気遣って、総司は出来るだけ明るい笑顔で、にっこりと微笑んだ。




―|toptsugi#




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