咽せる度に、喉の奥に血の味を感じるのではないかとひやひやした。
今すぐにでも喀血して、そのまま卒倒してしまいそうだ。
……あの時みたいに。
あの時だって、胸のあたりにつかえる違和感に気付いてはいた。
何となく身体が重く気怠いのは、暑さの所為だと信じ込んで、上手く動かない身体を無理やり奮い立たせていた。
でも、それで充分な働きができた。
何人も斬ったし、何人も仲間を守った。
今でも肉を切り裂くあの感覚が、この手に残っているんじゃないかと思うほど鮮明に覚えている。
なのに。
僕はあの日、とうとう倒れた。
自分をも欺き、ずっと隠して通してきた最大の秘密が露呈してしまった。
胸の奥から込み上がってきたあの血の味は、今まで人を散々殺してきたことへの代償だったのだろうか。
自分が赤く生暖かいものを吐いているのを、どこか遠い意識の中で感じていた。
そのあとのことはよく覚えていない。
僕らが討ち入りに成功したのかすら、よくわかっていなかった。
ただ、気づいたら朝日が眩しくて、別働隊だったはずの土方さんが傍にいた。
なされるがまま、土方さんの肩に手をかけさせてもらって、半分引きずられるようにして屯所まで帰った。
「僕たち、勝ったんですね」
道端に並んで僕らを見る野次馬の目や、遠くに聞こえる歓声で、その時初めて勝利を自覚した。
「ああ、そうだよ。俺たちがやったんだ」
土方さんの嬉しそうな顔は、今でも覚えている。
「総司、ついたぞ」
え?屯所に?
もう?
六条からは遠いはずなのに。
そう言おうとして慌てて我に返った。
フロントガラス越しに見上げれば、そこには洒落た高層マンション。
土方さんの自宅だ。
眠いときや具合の悪いときは、ついつい昔の自分が出てしまいそうになる。
「歩けるか?」
「大丈夫…ですよ。ただの風邪なんだから、心配しないでくださいってば」
『こんだけ血を吐いて、ただの風邪なわけがあるか!』
「これ、僕の血じゃないですよ…全部、返り血で……」
どこか朦朧とする頭で土方さんを見ると、ぎょっとしたような顔でフリーズしていた。
あれ、何か僕、変なこと、した、かな。
「……」
差し出された土方さんの手を取る。
それは、驚くほど冷たかった………
「土方さん、大丈夫ですか?」
「は?」
マンションのエレベーターの中で尋ねる。
「手が冷たいし、それに、こほっ、土方さんも疲れて…」
「おめぇが熱すぎるんだよ。大体おめぇは気を使いすぎなんだ。ほら、ちゃんともたれろ」
「土方さんに…僕が気を使うわけないじゃないですか……」
「は、そうかよ」
それから引きずられるようにして土方さんの家に上がり、ベッドまで運んでもらった。
「何も気にしねぇでいいから、ゆっくり寝ろよ。今色々持ってきてやるから」
「……なんか…すみません…」
「だから、気にするなって言ってんだろうが」
土方さんがいつになく優しくて、僕はゆっくりと意識を手放していった。
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