硝子の檻 | ナノ


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「……っ!!」


総司は目を見開いた。


「いっ……いやだぁぁぁ!!!!!!」


咄嗟に声の限り叫び、思い切り身体を捩って土方の手から逃れようとする。

が、土方はびくともしない。

今度こそ本当に身の危険を感じて、総司は土方を思い切り蹴り上げた。


「っ……」


確かな手ごたえを感じて、土方が低い声で呻く。

手に込められた力も少し緩んだ。


総司はその隙に、土方の腕から逃れるようにソファから転げ落ちた。

焦って立ち上がることも出来ず、這いつくばるようにしてドアまでたどり着くと、やっとのことでドアノブに手をかける。

しかし土方の回復の方が早かったようで、刹那凄い力で足首を引っ張られた。


「やっ…やめてよっ!!やだぁぁぁっ!!!」


必死に泣き叫んだけれど、土方は許してくれない。

痣が出来るのではないかと思うほど強い力で、足首を持ったまま総司の身体を引きずっていく。


「ごめんなさっ…ごめんなさいごめんなさいっ!」


自由が効く上半身を捩じらせて、土方から逃れようとする。


「おねがい……許してぇ…っ…!」


ずりずりとフローリングの上を引きずられながら、総司は微かに抵抗を試みた。

徐々に遠のいていくリビングのドアを、恨めしそうに睨む。

これでもかというくらい、涙が溢れてきた。


「痛い!離してよっ!」


暴れる総司を、土方はがっちりと捕らえたまま離さなかった。

総司の抵抗虚しく、土方は総司を軽々と持ち上げると、再びソファの上へ乱暴に放り投げる。

いくら柔らかなソファの上とは言え、酷い頭痛を抱えた総司にとって、それは充分すぎる衝撃だった。


「ぁうっ…痛……」


頭の中からハンマーで殴られているような鈍痛に、総司は必死で涙を堪えた。

怖くて喚きそうになりながらも、必死にソファから逃げ出そうと試みる。


「っ…まだ抵抗すんのかよ」


総司が暴れると、土方は心底不機嫌そうな顔になった。


「ったく……縛られたくなかったら大人しくしろ」


総司は泣きながら首を振った。

どちらも嫌だ。

諦めて大人しくすることも、惨めに縛り付けられることも望んではいない。


「ったく、最初くらい優しくしてやろうかと思ったがやめた。暴れるお前が悪い」


土方の言葉に、総司は一瞬動きを止めた。

その隙をついて、土方が総司の腕を絡め取る。


「い、っ痛……!」


少々きつすぎる程の力で手首を握られ、総司は顔をしかめて呻いた。

咄嗟に振り上げた足も掴まれ、そのまま横に開脚させられる。


「っゃ、だっ…てば!」


羞恥で顔を隠したいのに、手が固定されているためそれすら叶わない。


「ぅう…っ…やめ、て……おねがっ…」

「…お前は売られた身なんだ。拒否権なんざ一切ねぇんだよ」

「っでも…ひっく……や、だぁ…」

「そんなに嫌がらなくても、すぐに気持ち良くしてやるさ」


総司は恐怖に身を強ばらせながら、近付いてくる土方から思わず顔を背けた。


「んんっ!…ん!」


土方の舌が、剥き出しになった総司の首筋を這う。

総司はその刺激に目を見開いて、びくりと身体を震わせた。


「ゃ、ちょっと、なに……っ」

「ごちゃごちゃうるせぇよ。大人しくしろ」


痺れるような感覚に、身体がどんどん熱くなっていく。

咄嗟に抵抗しようと腕に力を篭めたが、押さえつけている土方の手はびくともしなかった。


「っ!!ぁ、や…っ!」

「やじゃねぇんだよ。これからしっかり感じるようになるまで開発しねぇといけねぇからな」


土方の舌が耳を擽る。

そのまま耳腔に差し入れられて、直接響いてくる濡れて猥雑な音に、総司はいやいやと首を振った。


「…ぃ、ぁあ、ぁっ」


これほどまでに甘い嬌声を発している自分が信じられなかった。

考えるだけで羞恥にまみれ、消えてしまいたくなる。

生理的なものか、あるいは別の理由からか、思わず両眼から涙が零れ落ちた。


その間にも、土方は総司が着ている服のボタンを片手で器用にはずしていく。

まだ全てはずし切らない内から、土方の手が、総司の胸をまさぐった。


「も、やっ、あ……おねが、い……」

「………少し黙れ」

「ぁっ……っ!!?」


突然胸の突起を抓まれて、総司の身体がびくりと跳ねた。


「ほぉ……感度はなかなかいいじゃねぇか」

「違っ、うっ!」


爪を立てて乳首を攻められれば、熱に浮かされた総司の下半身が疼き始める。

口から熱い吐息が漏れる。

上半身を捩ることで必死に土方の手から逃げようとするが、強い力でベッドに縫い付けられてしまってはそれすら適わない。


「は……勃ってきたな…」

「や、だぁっ…ぁ」

「嫌じゃねぇだろうが」


刹那、土方が総司の乳首に舌を這わせた。


「や、!ちょっ…ぁっ、何して…やめっ、んぁアっ…」


ワザと激しく音を立て、一番敏感なところをはずす。

そうして総司を焦らしておいて、土方は意地の悪い笑みを浮かべた。

身体中の神経が集まったかのように、微かな刺激にも敏感に反応し、身体がびくつく。

胸に顔を寄せたままで、土方は空いている片手を使い、総司のスラックスを器用に脱がせた。

ろくな抵抗もできないままで、総司の秘部が露呈する。

急に空気に晒されて、冷やりとした刺激が走った。

悪寒にも似た震えが背筋を伝い、総司の目が恐怖と快楽に揺れる。


「ぁっ…やぁっ…やだぁっ…!」


頭を左右に振って拒否するが、もはやそれは全く意味をなさない。

土方は総司の下半身に手を伸ばすと、やんわりとした刺激を与えた。

そんな生ぬるい刺激では足りないほど、それは主張を始めている。


「ぅ…ぅっ…やめ、やめて…っ!」

「お前、本当に素直じゃねえな」


土方は冷徹な目で総司を見下ろした。

その射抜くような視線に耐えられず、総司が思わず顔を背けた瞬間、不意に土方の指が先端を抉った。

瞬時に桁違いの快感が身体を駆け抜ける。

先走りという言葉では片付けられないほど蜜を溢れさせる総司自身に、一気に熱が集中した。


「やだっ!やだぁっ、ぃ、イっちゃ…!」

「イけよ、ほら」

「イかなっ…イきたくないっ!」

「いいからさっさと出せよ」


ぐちゃぐちゃと卑猥な水音を響かせながら、止まることなく上下に動いて総司自身を扱き続ける土方の手が、段々と総司を狂わせていく。


「お願い…だから!もっ、やめてよっ!」


総司の中に僅かに残っている理性が、与えられる快感に身を委ねることを忌み嫌い、そして恐れていた。


「やめてじゃなくて、もっと、だろ?」


総司は快楽から逃れようと必死で、ただ首を横に振ることしかできなかった。

頭を振るたびに、涙がぽたぽたとシーツを濡らす。

胸と下を同時に責められれば、もう限界は間近だった。


「……ほら、いい声で啼けよ」


土方は俄かに指先に力を籠めると、思いきり先端を引っ掻いた。


「っ…ぁ、ぁーーーっ!!」


総司はその衝撃で呆気なく果てた。

乳白色の卑猥な液体が、総司のお腹と土方の手をべとべとに汚す。

それを無表情で眺めると、土方は徐に、総司が出したもので塗れた指を綺麗に舐めとった。


「やっ………汚い…」


それからようやく、ずっと頭上で押さえつけていた総司の両手を解放する。

キツく握られていた手首には、うっすらと赤い痕が残ってしまっていた。

総司は恐る恐る自由になった腕を動かすと、少し痺れている両手ですぐに顔を覆い隠した。


「…う…ぅ………」


羞恥と絶望で、どうにかなってしまいそうだ。

荒い息を吐きながらしくしくと泣く総司を見下ろして、土方は静かに口を開いた。


「……どうだ、気持ちよかっただろう」

「……っひっく…」


気持ちよくなったわけではない。

男というのは、情けなくも快楽に弱い生き物なのだ。

だが、見ず知らずの他人にこんなことをされ、しかも売られた意味を身体を持ってして嫌と言うほど知らされて、ずたずたに引き裂かれた心は悲鳴を上げていた。

これがただの夢だったら、どんなによかっただろう。


「…ほら、今日のところはここでやめておいてやるよ」


土方の言葉に、総司は顔にやった手を僅かにずらした。


「何も初っ端から挿れようなんざ思ってねぇから、そんなに泣くんじゃねぇよ」


総司は魂の抜けたような目で、土方を見上げた。

その視線を暫し受け止めてから、土方はソファから降りる。


「これが……売られたってことなんだよ」

「…うぅ……ぐすっ…ひっく…」

「……そう思って諦めろ」


苦々しげに言い捨てる土方の言葉に、総司は激しく慟哭した。

涙が止まらない。

泣くだけ悲しくなると頭では分かっているのに、どうしても泣き止むことができなかった。

頭の中で、売られた、という四文字がぐるぐると回っている。


「…まぁ……これからは体力勝負だからな……とりあえず、ゆっくり寝ろ」


そう言い捨てて、土方はリビングから出て行った。


静まり返ったリビングの中に一人取り残されて、総司は身じろぎもせずに嗚咽を漏らし続ける。

身体のあちこちが痛んだ。

だが、身体の痛みならいずれ消える。

それよりも、心が痛かった。

この痛みが消えることはあるのだろうか?


身体だけでなく、心まで陵辱されたような気分だった。

今までにない屈辱に、どう耐えればいいのか分からない。

僕は、れっきとした男なのに。

そう思うと、涙が止まらなかった。


そのうちに、この痛みにも慣れてしまうのかもしれない。

自ら快楽を求めるようになるのかもしれない。

それは総司にとって、底知れない恐怖だった。

こんな惨めな思いをして、これから毎日無理やり身体を開かれて、それでいずれ…売られていくだけなら、いっそのこと死んでしまいたい。

またクスリを打たれて、そのまま発狂してしまいたい。

何も分からないまま、一生を終えてしまえばいい。


…もう、どこにも希望はなかった。




*maetoptsugi#




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