硝子の檻 | ナノ


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もう数時間は経っただろうか、もう身体中の感覚がなくなっているというのに、快楽の責め苦は終わりを見せなかった。

後ろにバイブを突っ込まれたまま、満足にイくことも許されない。

総司の射精を完全に戒めるために填められたコックリングは、根元に食い込んで総司の腫れ上がった中心を赤黒く鬱血させていた。

痛みはとうに失せて、今あるのは性的快感と早く達したいという無我夢中の思いだけだ。


「ここも舐めてやろうか?」


土方にべろりとしこった乳首を舐め回され、舌で転がされ、唾液でベトベトにさせられる。

舌先を尖らせたり、甘噛みされたりと、あの手この手で胸を攻め立てられた。


「うぅ……っは…ぁ、ん……ぅ、う、あ…」


胸と同時に亀頭を撫で回されて、総司の腰がふるりと震える。

土方は尿道を広げるように親指を立てると、抉るように爪を動かした。


「ん、ぁっ…あぁっ、イきたっ、ぁ!」


そんなことをされても吐き出して気持ちよくなれるわけではない。

むしろ苦痛が募るばかりだ。

すると突然、土方がバイブを止め、後ろから抜き去った。

いきなりのことに総司が驚いていると、土方は手を太腿に持って行き、そこを撫で回し始めた。

縦横無尽に這い回り、裏をなぞって踵まで降りる。


「………こんな足、俺が切り落としてやろうか」

「っ……!?」

「チェーンソーなら、一応あるんだ。上手く止血すりゃ、死ぬことにはならねぇだろう」


土方の衝撃的な言葉に、総司は何も言えず唾を飲み込んだ。

土方なら、単なる脅しではなく本当にやりそうで怖い。


「なぁ、そうすれば、お前は二度と逃げられねぇだろう」


土方に足の付け根をグイッと押し広げて、大きく開脚させられる。

長い責め苦のおかげで、総司にはもう抵抗する力が残っていなかった。

ジュッと音を立てて、土方が太腿を舐め回す。

長い舌が、くねくねと肌の上を這っては唾液で濡らしていく。


「なんなら、手も一緒に切り落としてやってもいいな」

「や…だ………やだ、そんなの…!」

「なら、関節でも外すか?」

「かん、せつ……?」


早速と言わんばかりに、土方が足に添えた手にグッと力を込める。


「ああぁぁぁっ…!!痛いっ…!!やめて!痛い!!!」


ミシミシと骨が軋み、足が有り得ないほど外側に開いていく。


「っやだぁ!…うぁ…ぁ、やめてください!お願い………!っ痛い!!」


力の抜けない土方の手から逃れようと躍起になる。

が、下手に暴れるとすぐに関節が外れてしまいそうで恐ろしい。

ぎぎぎ、と押される足を見て、総司は壮絶な痛みを覚悟して目を瞑り、涙を溢れさせた。

すると、土方がようやく手を退けてくれた。

張り詰めていた息を吐き出し、体中から力を抜く。

足を閉じたかったが、無理やり広げられた所為で感覚が戻って来ず、全く動かせない。

恐ろしすぎたのと、やっと安心したのとで心がぐちゃぐちゃで、総司は暫くしゃくりあげていた。

涙を流しながら土方を見上げると、土方は無表情で総司を見つめていた。


「………五体満足でいたきゃ、もう二度と逃げ出すんじゃねぇぞ。次はねぇからな」


そう言うや否や、再び足を掴んで腰を引き寄せられた。

ベッドに括り付けられた腕が限界まで伸び、体が動かせなくなる。


「ひぁっ………あぁぁっ!!!」


そのまま土方の熱がグッと押し付けられたかと思ったら、一気に奥まで突き立てられた。

バイブにより拡張させられた後孔は、すんなりとそれを飲み込んで、痛みすら感じさせない。

ぬぷぬぷと飲み込まれていく土方の逸物を、総司は目を逸らすこともできずに凝視していた。


「やっ、あぁぁっ、いきなり、っ、ん、んっ、」


奥まで入るなり容赦なく腰を打ちつけてくる土方に、総司は否応なく喘がされた。

ごりごりと前立腺を擦りあげられ、ぬちゃぬちゃと潤滑油をかき混ぜ、撒き散らしながら突き上げられる。


「もっと腰を振るんだよ!おら!」

「ぅあ、ゃっ、ぁ…んっ!!」


意識が飛びそうになる中、ようやくコックリングを外してもらえた。

遮るものがなくなって、待ちわびたように吐精するものの、勢いがない。

そのくせ大量で、長々と続く絶頂の間も律動は止まらず、総司はとうとう意識を失ってしまった。











突然頭から冷たいものが降り注ぎ、総司は心臓発作を起こしそうになりながら覚醒した。


「……意識が戻ったか」


キョロキョロと見回すと、広いバスルームのタイルの上に投げ出された状態で、総司の頭にはシャワーが降り注いでいた。

それを土方が上から見下ろしている。

総司が慌てて体を隠すと、土方は嘲るように鼻で笑ってからこう言った。


「体、綺麗にしとけよ。俺はお前が逃げねぇように、ここで見張ってっから」


浴室のドアを閉め、土方がその向こうに座ったのが、磨り硝子越しに見えた。

あいにくと、腰が痛すぎて逃げ出すどころの始末ではない。

総司は溜め息を吐くと、シャワーの温度を上げて、体についた様々な液体を洗い落とし始めた。











土方がどういう人間なのか、未だによく分からない。

浴室から出るなり、待ち構えていたようにバスタオルで体を拭かれ、いたわるような手つきで新しい部屋着を着せられてから、リビングに連行された。

テーブルの上には既に食事が並べてあり、食べろと促される。

食欲など微塵もなく、できることなら今すぐに寝てしまいたい総司ではあったが、逆らって酷い目に遭ったらたまらないので大人しく従った。

すると土方も一緒に席につき、目の前で同じものを食べ始めた。

土方が何かを食べているのを見るのは初めてだ。

つい凝視して、その人間らしい動作を目で追っていると、土方が気づいて顔を上げた。


「何だよ」

「いえ………あなたも食事を取ったりするんだと思って」


土方は不可解そうに眉を吊り上げた。


「お前は俺を何だと思ってるんだ。人でなしか?」

「………………」

「………まぁ、そうだろうな」


表情一つ変えずに、土方は呟く。


「少なくとも、組織に属してる奴らに、"人"はいねぇだろうな」

「…組織、………?」


今まで幾度か聞いてきた単語ではあるが、いまいち全貌が掴めない、――組織。


「あぁ、話したことなかったか?俺は何も、一人っきりでこんなことをしてる訳じゃねぇ。むしろ、俺だって雇われの身だ。俺みてぇな立場の奴は、大勢いる」

「………………」

「人によっちゃ、毎日クスリで抑制して、ほとんど人として機能してねぇ状態で売り飛ばす奴もいるらしい。それを考えると、俺はだいぶマシな方だと思うがな」


それが果たして慰めになっているのか、総司には分からなかった。


「…………僕みたいな境遇の人が、そんなにいるってことですか」


ぽつりと呟くと、土方が顔を上げた。

それから重々しい沈黙の末、とんでもないことを言われた。


「………まぁ、隠すこともねえから言うけど、お前ぐらいの年の奴は、初めてだ」

「え――――」


いつも俺と同い年ぐらいの奴ばかりだった、と土方は吐き捨てる。

嫌悪感を剥き出しにして。


「でも………」


でも、そんな大の大人を、一体誰が売るんですか。

言い淀んでいると、土方が敏感に察してくれた。


「みんな、自分で自分を売るんだ」

「それって…………」

「男もいりゃあ、女もいた。金に貧窮したのか、単に快楽に溺れたいだけなのか、家庭を捨てたのか…理由は様々だが、みんな自分でここに来て、自分で売られて行った、」


ぼそぼそと呟く土方には覇気がない。


「じゃあ…僕………」

「ああ。お前は俺の中では例外中の例外、ってことだな。俺は、組織が単なる売春どころか人身売買まで斡旋してるなんて、お前が来るまで全く知らなかった」


知らなかったって……

土方は、ならどうしてこの組織に入ったのだろう。

大きな疑問だったが、何となく今は聞かない方がいい気がした。


「……土方さんは、もうずっとここに?」


微かにあった食欲すら失って尋ねると、彼は遠い目をして小さく頷いた。


「もう、ずっとここにいる。俺は、この世界以外、何も知らねえ」

「……………」

「そりゃあ、俺にも幼少時代ってのがあったんだろうが、んなもん覚えてねぇし。気付いたらこの仕事をしてたって感じだな」


土方の言い回しは、まるで自分には温かい記憶が一切ないと言っているように聞こえた。

最初から外の世界を知らないのと、知っていてこういう世界に閉じ込められるのと、果たしてどちらが幸せなのか。

そんなの前者に決まっている。

総司は暫く何も言えなかった。

それを気にするでもなく、一人食事を終えてコーヒーを飲んでいる土方に、どんどん居たたまれなさが募っていく。


「…………あの、僕、…寝てもいいですか?」


散々な目に遭わされて、――というのも元はと言えば自分の所為なのだが――本当はこうして話していることすら辛かった。

体力が限界だったし、それに何よりも、これ以上土方の傍に居たくない。

総司が蚊の鳴くような声で呟くと、土方はちらりと視線だけをこちらに向けた。


「それ、残すのか?」

「はい、もう、食べられなくて…………あ、あの……ごめんなさい」


また仕置きだなんて言われたらたまらないと、慌てて頭を下げる。


「どうして謝るんだ。食わねえなら捨てるだけだし、俺は何も困らねえが」


そう言って、皿の上の残飯を捨てるために立ち上がった土方に、総司はますます萎縮した。

その突き放すような物言いが、無性に泣きたい気分にさせる。


「あ、の……じゃあ……お、やすみなさい…」

「好きにしろ」


総司は、土方の視線から逃れるように寝室に駆け込んだ。

既にシーツも布団も何もかも替えてあって、情事の痕跡を残すものはなにもない。

きっと、気を失っている間に土方がやったのだろう。

総司はぽふんと突っ伏すと、何も考えないで済むように目を閉じた。


ここにいる限り、意志など持ってはいけないのだ。

持ったとしてもそれが聞き入られることは一切ないし、逃げたいとも、嫌だとも思ってはいけない。

人形のように、ただひたすら大人しく言うことを聞くしかないのだろう。

こんな生活が続くくらいなら、いっそのこと死んでしまいたいと総司は思った。




*maetop|―




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