「……っ…ん、」
尋常ではない異物感で意識が浮上した。
身動いだ途端に鳩尾に重い痛みが走って、思わず呻き声を漏らす。
「ようやく目が覚めたか」
恐ろしく低い声が骨にまで響き渡り、総司はハッと目を開けた。
「…ん……ぅ………」
少しぼやけている視界に、見慣れた寝室が映り込む。
「あ…ぁ………」
そうか、僕は逃げ損ねたのか。
自覚した途端、身体がすーっと冷たくなっていく。
「分かったか。今のお前の状況が」
「………………」
総司は黙りこくることでそれに答えた。
そしてぼやける視界を擦ろうとして、手が動かないことに気がついた。
「え…!?」
驚いて見やれば、両手がベッドベッドに括り付けられている。
それに、今の自分の格好ときたら。
身には一枚の布もつけておらず、生まれたままの姿で、ベッドの上で四肢を広げて仰向けに寝転がっている。
両足は土方によって大きく広げられているし、そして後ろには、……恐らくこれが異物感の原因だろう、土方の指が数本押し込まれていた。
「………っ…」
「お前の意識が戻るのを待ってたんだ。意識がねぇと、仕置きにならねぇからな……」
「い…いや……嫌、だ…こんなの…」
「今からみっちり教えてやるよ。逃げ出したりしたらどうなるのか」
総司は咄嗟に逃げを打った。
今更どうにもならないことなど分かっていたが、それでも本能的に身体が動く。
すると、それをすかさず土方に阻止されて、元通り腰を引き戻された。
「あッ、ぅ、んっんっ!」
土方の指が、総司の後孔をぐちゃぐちゃと掻き回す。
くちゅ、と水音が響くのは、恐らく粘着質な潤滑油の所為だろう。
文字通り臓腑を抉られるその行為に、総司は荒い息を吐きながらポロポロと涙を零した。
同性に大して柔らかくもない尻たぶを揉まれ、膨らみのない胸を弄られ、挙げ句の果てには尻の穴まで蹂躙されるなど、酷く惨めで、そして滑稽だ。
「う、ぅ、ぁぁ…アッ、ーーっ!」
土方が器用に中のしこりを押し潰せば、喉の奥から悲鳴が上がる。
総司は既に、そこがいかに快感を煽る場所かを知っていた。
否、無理やり身体が覚えていた。
ぐりぐりと乱暴に弄られて、痛いはずなのに何故か身体は快感のみを拾い上げ、そして前が起立する。
「ひっ……あ゛ッ…ぁ、っン!いやっ!」
思わず砕けた腰は土方に鷲掴まれ、咎めるようにひっぱたかれた。
「っ、痛いっ!」
「おら、しっかりしねぇか!」
「あ、や、やだ…ッやですっ…お願い、やだ、ッア、やめっ……」
ぱしん、と太腿を叩かれては、中でくいっと指を動かされ、総司は涙を散らしながら腰を捻った。
頭にあるのは、恐怖と痛みと、そして、少しの快感だけだった。
「おねがっ…もう分かった…からっ」
「分かったわけがねぇだろうが!のこのこ逃げ出しやがって……!」
「だっ、て…」
甘かったのは土方だ。
簡単に切れる鎖と、中から普通に開くドア。
そんなもので総司を囲ったつもりになって、自分は家を留守にしていたのだから。
抗議するように睨みつけると、土方は不穏な笑みを湛えて、ニヤリと口元を歪ませた。
「お前は、俺を間抜けだとでも思ってるんだろう」
「……!」
土方は指を引き抜いて、舐めるように総司のことを見下ろしてくる。
「は、図星か―――だが、本物の間抜けはお前の方だぞ、総司」
名前を呼ばれ、総司はびくりと身体を震わせた。
逃げたい、今すぐここから逃げ出したい。
「最初っから、お前は口を開けば逃がしてくれ、だったな」
「……当たり前じゃないですか」
「だから、悪いが試させてもらった」
「試、す……?」
身体中から血の気が引いていく。
「まず第一に、今朝お前の足にはめた鎖は、かなり老朽化したやつにした。しかも、予め切れ目を入れておいた」
「なっ………」
「驚いたか?けどまだ序の口だぜ。次は玄関のドアだが、あれは内側からも鍵がねぇと開かない仕組みになってる。けど、今日はわざと内側の鍵を開けておいた」
「………………」
「それから、このマンションは常に組織の者が見張ってる。お前が万が一逃げ出したら、速やかに確保できるように包囲網を張り巡らしてある。ついでに言っておくと、今日は俺が、すぐそばで待機していた。勿論偶然じゃねぇ。わざと、だ」
「そんな……」
「まぁ、だいぶ大きな組織だからな。警察にだって、息はかかってる。踏み込んで捜査しようものなら、すぐに揉み消されるだろうよ」
「………………」
言葉もなかった。
総司の視線は確かに土方の方を向いてはいたが、その目には何も映り込んではいない。
……要するに、嵌められたのだ。
逃げ道などは最初から虚構でしかなく、全ては作為的に仕組まれた罠だった。
逃げ出せる環境になったらどういう行動を取るか、わざと泳がせて、これ見よがしに捕まえて。
希望を与えてからどん底まで突き落とすなんて、卑劣すぎないだろうか。
誰だってこんな状況に置かれたら、隙あらば逃げ出すはずだ。
そんなの試すまでもない。
僕はこの人たちには、悪いことなんか何一つしていないのに。
どうして、そこまでして僕を捕らえておく必要があるんだろう。
どうして、僕に固執するの。
頭の中に、様々な思いが浮かんでは消えていく。
だが、答えはとっくに知っていた。
僕が、商品だから。
犯罪が公になったら困るから。
今更ながらに、自分を売った義理の両親が恨めしくなった。
「最初に言ったはずだ、逃げ道はどこにもねぇって」
「っそんなの……!」
「俺は忠告もしたよな?分からねえなら身体に教えてやるって」
「……………」
「……お前は、あんな生温い仕置きじゃ足りねぇってことだったんだな」
「ち、が………」
「今度こそ、二度と逃げ出せねぇようにしてやるよ」
「っ………!」
身構える間もなく、すぐに巨大な質量のものが押し当てられ、総司は喉の奥から悲鳴を上げた。
「ッ―――や、あ、ぁぁぁっ!!」
こんなもの、知らない。
こんな、無機質で、冷たくて、太くて、固いもの………
思わず身体を堅く強ばらせると、得体の知れない何かが、中にめりめりと食い込んできた。
「あ゛ぁ゛ーっ!!っぁあ、ぁっ、ぅ、…ぁ、」
絶叫して、ベッドの上へと逃れようとするも、逆に土方に引き戻される。
背中を仰け反らせ、腰を捻って暴れても、それは益々深く食い込んでくるばかりだった。
「いたっ…痛いっ、っ、痛い、っいた、」
身体が裂けそうだ。
必死で息を整えようとするも、土方が容赦なくそれを奥まで押し込んでくるので、息はますます詰まる一方である。
「は……こんなぶっといバイブもちゃんと全部くわえこめるとは……お前は本当に淫乱なんだな」
「ちがっ……ぼく、は、っぁ…く、っぅ、」
土方がわざとそういうことを言っているのはよく分かる。
淫乱だと繰り返すことで、総司の頭にそれを刷り込もうとしているのだ。
はぁはぁと引きつったような呼吸を繰り返す総司に、土方は冷たい視線を落とした。
「淫乱なお前は、外になんか出ちゃいけねぇだろ?お前の居場所はここにしかねぇよな?違うか?ん?」
「もっやだぁぁっ……抜いて…っ…抜いてくださっ!ね、っおねがっ…」
「はぁ…まだ分かんねえのか……」
総司が最後まで言い終わらないうちに、土方は無情にもバイブのスイッチを入れた。
ブブブ、という振動が伝わると同時に、総司の口から再び絶叫が漏れる。
「っあ゛ああ゛ぁぁーーーっ!!!」
総司は激しくのたうち回った。
感じる所を的確に狙って振動する
手首を戒められ、今ひとつ不自由な身体で、それでも必死に腰をくねらせ、何とか過ぎた快感を逃そうと躍起になる。
「おーおー、そんなによがるほどいいか?こいつは」
こいつ、と言って土方がバイブの先を更に奥まで押し込む。
たまらずに大きく広げられた足をばたつかせると、その足が土方の身体を思い切り蹴り上げた。
「あっ……」
「てっめぇよくも……!!」
「い゛っ…ぅ、ぁぁっあぁっ!!」
土方は総司の両足首を力任せに掴むと、お腹につくほどに足を折り曲げた。
抵抗しようにも、土方が上から押さえつけてくる所為で動けない。
そのままぐちぐちと水音を響かせてバイブを抜き差しし始める土方に、総司は半分意識を飛ばしかけながら、掠れた声で喘ぐしかなかった。
「……っ許し、て、…ごめ、なさッごめんなさ、いっ」
「馬鹿言え。許すわけねぇだろうが」
「ゃ、だっ…も、やだぁっ、ぁ、あっ、ん、んっ」
土方はチッと小さく舌打ちすると、総司の前に手を伸ばし、蜜を溢れさせるそれをぎりりと握り締めた。
「っああぁぁあっ!!やめっ……やめ、てっ!」
キツく根元を握り締めたかと思ったら、次の瞬間には優しく全体を擦られ、先端を抉られる。かと思いきや、また元通り射精を戒められている。
土方の巧みな焦らし方に、総司は半狂乱になりながらパサパサと髪を振り、腰を捩った。
「はぁ…は、ぁ……あっ、」
「こんなに感じきってんのに、嫌、だもんな」
「う…ぅ…や、だ…ぁ…」
「やだやだうるせぇんだよ!」
嫌だと言えば、尻や太腿を手加減なしに叩かれる。
そして、容赦なくバイブを抜き差しされた。
単調に振動し続けるバイブに、何度も意識を持っていかれそうになる。
それでも気を失うなど決して許されず…総司は何度も死んだ方がマシだと思った。
「ここが感じるのか?それともこっちか?」
「ふ…ぇ……どっちも、いや…ぁっ」
「そうか、どっちもイイんだな」
「……っく…」
そう言って土方は、振動の強さをいたずらに変え、総司が苦しむのを楽しんでいるようだった。
「はは……無理やり痛い目に遭ってるっつうのに、お前はこんなに感じるのか」
いっそ痛いほどの強さで、完全に勃ち上がった前を戒めて、土方は薄く笑った。
「少し痛ぇくらいが、お前にはちょうどいいんじゃねぇのか?」
「ち、がう……いたいの、…や…だ…」
「嘘を吐くんじゃねぇ」
土方は、総司の耳に顔を寄せてこう言った。
「……淫乱」
「…っ」
眉尻が下がる。
唇を噛んで、冷たい嘲笑を湛える土方から、総司はサッと顔を背けた。
違うと言いたかったが、やめた。
感じてしまっているのは事実なのだ。
中から直接刺激されれば、それも仕方のないことだろうが、恐怖の中にあっても感じてしまう自分の身体が、どこまでも恨めしい。
総司は、永遠に続く"仕置き"と称するただの暴行に、涙を流して耐えるしかなかった。
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