「名前とエース隊長って、くっ付いてもう2年近く経つんだっけ?」
「え?うん…そのくらいかな」
「仲良しでいいわよね、喧嘩もなさそうだし」
「えっ、あ、そ、そうかな」


久しぶりに開かれたナース室でのお茶会、初めは流行りものの話なんかで盛り上がっていたんだけど、いつのまにか恋愛話に発展していて、一人のナースさんから発せられたのがわたしとエースの関係だった。

さっきの一言に他のナースさん達もわかるわぁ。と共感してくれているみたい。
わたしは自分たちのことを言われ、嬉しさよりも恥ずかしさが勝ってしまい、曖昧な笑顔しか出せなかった。



「でも恋人らしいって感じもあまりないわよね、キスとかしてるの?」
「えっ、キ、キス…!?」


わたしも気になるわ!とみんなの美しいお顔がわたしに向いた。笑顔の圧力をかけられ、逃げることは不可能だと察したわたしは小さな声で答えた。



「ふ、2人の時は…た、たまに…」

「きゃーっ」
「初々しいわねっ」
「あたしはなんだか微笑ましいわ」



隣に座っていたミラノさんは、顔真っ赤よ。とわたしの頬を突いた。
わたしは恥ずかしさを誤魔化すように、慌ててテーブルにあったクッキーを口に入れた。


「で?で?その先は?」


クッキーから視線を上げ、そのナースさんを見つめた。


そ、その先……。


全員の視線が集まる中わたしはクッキーをゆっくりと咀嚼し、コクリと飲み込んだ。



「それは……まだ……」


「ま、まだ!?一度も!?一度もないの!?」
「う、うん…」
「あんなにいつも一緒にいるのに!?」
「う、うん…」
「あのエース隊長が2年近く我慢してるってこと!?」
「が、がまん…?」


大興奮のナースさん達の質問攻めにわたしは苦笑いを溢した。


キスのその先、もう子どもじゃないんだし、それがどういう行為なのかは知っている。エースがそういうことをしたいってことも…。

以前、書庫で思わず流されそうになった…。
















「……苦しいよ…」
「じゃあ苦しくないようにする」
「ちょっ…」


また唇を塞がれた。右手がわたしの頬に添えられて、左手で右腕を本棚に押し付けられる。残った手でエースを押すも微動だにせず、さっきと同じようにエースの舌が、唇を割って入ってきた。



「んんっ…!!」



今まで触れるだけのキスしかしたことがなかったわたしはエースの激しいキスについていけず、目をギュッと瞑って息をするのがやっとの状態。
だけどエースは舌を絡めるように顔の角度を変え、そして何度も何度もわたしの唇を吸った。

あぁ…、酸素不足になっているのかな。頭がボーッとしてきた。

そしてチュッと音が鳴らされると唇が離れた。


「はぁっ…はぁっ……」


息を整えていると、右頬にエースの唇の感覚がしてわたしはゆっくりと目を開けた。

すると、余裕のなさそうな表情のエースと目が合い、わたしは目を見開いた。


「名前…」


ギュッと、彼の腕の中に閉じ込められる。エースがわたしの肩口に顔を埋めて吐息がかかるとともに首筋にひとつキスをした。ピクリと身体が反応してしまうが、エースがスルスルとわたしの背中を撫で始めたことで一気に身体が強張った。

だんだんと身体が傾いているような気がする。キスのせいもあってわたしは意識がはっきりとしないまま彼の動きに身を任せていた。

気がつくと、書庫の床に寝かせられていて、わたしの上にエースがいた。エースはわたしの頬に指を滑らせ、ハァ。とひとつ息を吐いた。

そこでわたしの意識は正常に戻り、一気に恐怖が襲ってきた。



「えっ、エース!ダメだよ!こ、こんなところで!」
「じゃあおれの部屋…行こうぜ」
「それは……」



ここがダメなら部屋にとなるのは当然、だけど、なんとかして逃げなければ…。このまま事を進められるのだけは避けたい。



「ごめん…エース」
「え?」
「まだマルコに頼まれてた仕事が残ってるから!!!」
「うわっ」



自分の全パワーでエースを押し退け、そのまま書庫を飛び出した。




あれから、未だにエースと二人きりになることは避けている。もしかしたら…、いや絶対エース怒ってる…。

キスのその先の行為は、頭では理解していても、経験のないわたしにとっては未知のもの。
エースを好きじゃないわけでは決してないし、彼が望むのならとも思うけど、やはり恐怖が勝ってしまう。



「エース隊長はほんとに名前を大切にしてるわよね」
「普通の男なら2年も手を出さないなんて出来ないわ!」
「そう、なの?」


それにはびっくりだ。
もしかしてわたし、エースに辛い思いさせてたのかな…。


「でもわたし…、その、怖くて……」


わたしの発言にみんなの視線が集まった気がする。わたしは顔を少し伏せたまま上げられなかった。


「…そう」


そっとミラノさんの手が肩に乗せられて顔を上げる。


「怖いって気持ち、最初はみんな持ってるものよ。でもね、この人となら大丈夫って自然に思えるものなの」
「自然に……」


また視線が下がる。

エースとなら…、それはわかってはいるはず。なのに…。
わたしは一体何が怖いんだろう…?


「それにね、名前、無理はしなくていいのよ。エース隊長は変わらずあなたを好きでいてくれるわ」


ミラノさんの言葉にスッとした気がした。

そっか。わかった。変化だ。
わたしの恐れていたもの。
事に及んでしまったら、エースとの関係が何か変わってしまうような気がしてたんだ…。


顔を上げ、微笑んでくれていたミラノさんに、わたしも微笑み返した。


「ミラノさん…、ありがとう…」

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