わたしはメル、白ひげ海賊団2番隊の新入り戦闘員。
この船に乗ったきっかけは、彼らがわたしの暮らしていた村を海賊から救ってくれたこと。
もともと引っ込み思案で、人見知りという性格。だけど、昔から家族のいなかったわたしは、海賊団全員が家族だという彼らの絆にとても惹かれた。
彼らが船を出す前に、船長の親父様のところへ行き、この船に乗船する許可を貰った。
戦闘員としてこの船に乗り数か月、わたしは自隊の隊長であるエースさんに恋をしてしまった。
2番隊の隊長の彼と、乗船して数か月のわたしなんかでは話す機会はほとんどない。だけど、彼はわたしのことを知っていてくれたのだ。
何気ないひとことだった。
朝起きて、自室から食堂へ向かっている道中、前から歩いてきたエースさんはわたしとのすれ違い狭間に言ってくれたのだ。
「おーおはよ、メル」
たったそれだけ。なのにすっごく嬉しくて、返事がすごく変になってしまって、それでもエースさんは笑ってくれた。
それから彼を目で追うようになり、いろんなことを知った。
食事中に寝る癖があるということも。
弟さんも海賊で手配書を部屋に飾っていることも。
甲板の一番隅で昼寝をするのが好きなのだということも。
隊長補佐の名前さんのことが好きなことも……。
名前さんは、10年以上この船で暮らしてきた方で、すごく綺麗な人。
航海術の知識がすごくて、なんでもあのマルコ隊長に仕込まれたんだとか。
それなのに全く威張ったりなんてしてなくて、わたしのような新入りにもすごく優しい。
「メルちゃん、洗濯干すの手伝うよ」
「あっ、ありがとうございます…!」
ほら。わたしが一人で洗濯ものを干していると必ず手伝いに来てくれる。
それだけに、辛いんだ。
もっと嫌な感じの人なら嫌いになれたのにって、思っちゃう。
あっついねー。なんて額の汗を拭いながら笑う名前さんを見ていると、遠くから名前さんを呼ぶ声が聞こえた。
「名前ー、暑いからサッチがかき氷作ってくれるって!行こうぜ!」
「あ…、ごめん、わたしこれ終わらせてから行くから先に行ってて」
「んー?いや、一緒に行こうぜ、おれも手伝うから」
「そっか、ありがとう。じゃあそこからとって干してってくれる?」
「おう」
名前さんの指した洗濯籠からひとつ取ったエースさんは、不器用ながらも一生懸命洗濯用のロープに掛けていってくれる。
「こうやって皺伸ばすんだよ」
「こうか?」
「うん、エース上手だね」
「へへっ」
名前さんに教えてもらいながら洗濯物を干すエースさんはいつもじゃ絶対に見られないけれど、とっても楽しそうだった。でも、それも全部名前さんのためなんだろうなと思ったら、少し、胸が痛んだ。
「ふーっ、終わったぁ!」
「助かったよ、ありがとうエース」
「ん、いいぜ。いつもこんなに大変なんだなー。メル、ありがとな!」
太陽のような笑顔でそう言ってくれたエースさんのせいでまたわたしの体温が上がった気がした。
だけど、名前行こうぜ!と名前さんの肩に手を回して食堂へ向かおうとする。
2人の後ろ姿を見てやっぱりお似合いだなぁ。なんて思った。
「メルちゃん?」
「……はいっ?」
ボーッとしていたせいで反応が遅れてしまったわたしを名前さんは不思議そうに見つめる。
「メルちゃんも早く行こうよ」
「えっ…?」
「かき氷、食べに行こっ」
全部エースに食べられちゃうよっ。とふんわり笑いかけてくれた名前さんに、やっぱりこの人はずるい。なんて思ってしまった。
だから、嫌いにはなれないんだ…。
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