話終えると、おれの話を黙って聞いていたマルコとサッチが小さく溜息をついて目を合わせた。
立って腕を組んでたサッチは目線を外して、あー。と呟く。


「実は、名前が小さい頃にもそういうことがあってだな」
「そのころから名前は周りのことに気にするようになってたんだよい」
「そうだったのか」


二人の言葉に少し驚く。
2年前、マルコと喧嘩した名前から聞いた。幼い頃に聞いてしまった会話がきっかけで何か役に立たなければと思って、それで航海術の勉強を始めたって。この二人はそのことも知ってたのか。


「そいつらも名前が航海術の勉強しておれの手伝いをするようになってからは何も言わなくなってたんだがな…」


マルコはあの時、船を下りても職に困らないように航海術を教えたって言ってたけどそれだけじゃねぇ。この船での名前の居場所も作ってやってたのか。


「今回のこれはおれのせいだよい。最近、航路のことは全部あいつらに任せちまってた」
「お前だけのせいじゃねぇよ」


はぁ。と溜息を吐いて片手で目を覆うマルコの背をサッチはバシッと叩いた。
サッチの言葉を聞いておれもその通りだと思った。だってマルコはいつだってこの家族のことを一番に考えてくれてて、自分のことは後回しだ。まんまその性格が名前に移ったってくらい。


「実際みんなが名前に構ってたのは事実だし、それも状況的にしょうがねえことだろ、あんな状態の名前をほっておくこともできねぇし。そこに不満を抱く奴が出るって予測出来てなかったのはおれ達みんなだ」


サッチの言うことにおれもマルコも黙って頷く。


「ま、航海士たちにはエースが言って納得してたんだろうし大丈夫だろ。ただ名前が心配だな…」
「きっとまた一人で抱え込んでる」


あの笑顔の裏にはいつも小さな身体には見合わない大きなものを背負いこんでる。
相談できるのはマルコだけ、だけど、自分のせいでマルコ仕事の邪魔をするわけにはいかない。とか、きっといろいろ考えてるんだ。


「こういう時はエース、お前が適任だろい」
「おれ?」
「あぁ」


マルコからの指名が意外で顔を上げると、マルコが優しく微笑んでいた。
正直今の名前ならマルコやサッチの方が良いんじゃないかと思ってた。
よく知ってるし、おれなんて会って数日。信頼を寄せられてるわけがねぇ。
なんでだよ。と思ったままに口に出してみれば、マルコは少し視線を上にして考える仕草を見せた。


「なんとなくだよい」
「はぁっ?」


いつも理屈こねて、根拠があることしか言わないマルコが勘だけでこんなことを言うなんて初めてじゃないかってくらい。サッチもそれには少し驚いたようだったけど、すぐに納得したように笑った。


「まぁ、言わば、父親の勘ってやつかねい」
「はぁ…」
「きっとおれらが何か言ったところで名前は余計に気を遣うだけだ」
「お前なら、名前も素直になれるだろい」


なぜこの二人はここまでおれに期待してくれているのかわからねぇけど、マルコが言うならそうなのかって納得できる気もする。
その時サッチの言った言葉にハッとした。


「つーか、お前こそ名前に気遣ってね?いつものエースならすぐに追いかけて名前んとこいくだろ」


確かに、いつもなら確実に追いかけて話聞いてってしてた。なのに、なんで今回のはそれをしなかったのか。それはやっぱりおれも自分の知らない名前にビビってたのかもしれねぇ。
だからマルコのとこにきて、頼ろうとしてた。

名前は名前だってわかってたのに…。何やってんだおれ…。

すぐにソファから立ち上がる。


「おれ、行ってくる!」
「おぉ、そうしろ」


二人に見送られながら、扉を開いた。
マルコの部屋を出る直前マルコに引き止められ振り返ると、やつはにやりと少し笑いながら言う。


「今度名前を遊園地に連れてく、名前に誰と一緒に行きたいか聞いといてくれよい」
「わかった」


伝えねぇと。みんな名前のことを思ってるって。
お前はこの船に必要な家族だって…。

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