「大変だぁーーー!!赤髪海賊団だ!!」
誰かの叫び声が響き、モビーディック船内は騒然とした。
それは食堂で寛いでいたおれたちも同様。全員がその声の方へ顔を向けた。
「えっ!?」
「なにぃ!?」
「はあぁっ!!?」
名前マルコおれ、順にリアクションをとる中、事態の重大さをわかっていないエースだけが、嬉しそうに、まじでっ!と笑った。
甲板へ出て見張りが指す方を確認する。確かにあれは赤髪んとこのレッドフォース号だ。
「こちらに向かって来てます!!」
双眼鏡を覗く見張りが言いおれたちの緊張は高まった。
エースは強敵との戦闘に表情を輝かせていたが、好戦的なエースが突っ走って戦闘を始められては困る。おれ達は四皇の一団同士、慎重に対処しなければならない事態だ。だから、エースは名前と一緒に船内で待機してるように言った。なんでだよ!と突っかかってくるかとも思ったが、さすがはマルコ、名前を守れって言い方にすれば喜ぶエースがいた。
にしても赤髪のやつ…、新世界で縄張り争いをする四皇同士、お互いに争いは避けたいはずだ。なのになぜ向かってくる…。
「攻撃は?」
「攻撃態勢には見えません!…ん?」
「どうした?」
真剣な表情でマルコが見張りに確認を取っていると、見張りが口を閉じた。その後、あの…。と申し訳なさげに言った。
「……手…振ってます」
「…は?」
「しかも超笑顔っす」
「は?」
緊張していた船上が別の意味で固まった。ピュウと風が吹いていくのがわかった。
そんな中オヤジの笑い声だけが響いた。
「オヤジ…どうする?」
「グララララ、戦闘の意志がねぇならいいじゃねぇか。お前らもそれ下ろせ」
その言葉にそれぞれが構えていた武器を下ろした。
「おーい!」
船が近づくに連れ見張りの言っていたことがよくわかる。本当に超笑顔で子どものように右腕を上げ振っている。こちら側の全員が呆れたと赤髪を見ていた。新入りの中には開いた口が塞がらないってやつもちらほら。
「いやぁーすごい歓迎だなぁ」
船同士が隣接し、また船上の緊張が高まったがそれもやつによりかき消された。
片手を挙げて笑顔を振りまく赤髪に誰かが溜息をついた。マルコだ。
「おい赤髪どういうつもりだよい」
「マルコか、久しぶりだなぁ」
「んな仲じゃねぇよい!」
「グララララ、戦闘の意志はねぇらしい、いい酒持ってきたんだろうな」
「あぁ、最近立ち寄った…ぜ…ゼイン島で手に入れたんだがなかなかの味だったぞ」
手に持っていた酒瓶をオヤジへ向け投げた。それを見ていた若い衆が毒でも入ってるんじゃないかとざわめくがその心配がないだろうことは簡単に予想できた。
赤髪はこんな敵地のど真ん中でオヤジの首を獲ろうなんて馬鹿じゃねぇ。
「こんな広い海で偶々会うなんて何かの縁だろうと思ってな立ち寄らせてもらった」
「変なことをしでかさなけりゃいてくれて構わねぇよ、グラララ」
オヤジィ!と何人かからは声も挙がったが、大半はオヤジが言うならと、その場を去った。こいつは昔から呑気な野郎だ。戦闘になれば厄介だが、普段は気の良いやつだってことは長年の関係でわかっていた。
「四番隊のサッチじゃねえかお前も変わらねえな」
「てめぇもな」
「そういやエースはいねぇのか?」
「エース?」
赤髪の口から出たエースという言葉に疑問を感じる。
エースのこと知ってんのか?
「おう、なんか飲み物でも出してやるから来いよ」
「サッチそんな奴もてなす必要ねぇよい」
「ちょうど喉が渇いててなありがたい」
マルコの言葉を遮り、顔を綻ばせるとおれの後をついて来た。マルコが軽く睨んでたのは見なかったことにしよう。
食堂へ行けばエースと名前がいて、名前は驚いたようににおれの後ろを歩く赤髪を見ていた。まさかここへ連れて来るなんて思っていなかったんだろう。
「久しぶりだなぁエース!」
「赤髪も元気そうだな」
駆け寄るエースの肩を叩く赤髪。そんな光景を見ておれ達の頭にはクエスチョンマークが浮かぶ。
「お前ら知り合いか?」
「おう!」
「エースはおれの友達の兄貴なんだ」
「「はぁ!?」」
おれもマルコも席に座ったままの名前でさえ目を丸くして驚いた。
エースの弟といやぁ、普段から嫌というほど話を聞かされていたが、あの弟の友達が赤髪!?一体どういう繋がりだ。
「赤髪はルフィの命の恩人なんだよ」
ますますわからねぇ。
驚くおれたちを他所に2人はそのルフィの話で盛り上がっているようだ。
「エースの弟…一体何者なんだよ…」
「さぁな…」
「おぉい!お前らいつまで突っ立ってんだ!座れよ!」
客人であるはずの赤髪にせかされおれとマルコも席につくが、なんでお前がそこなんだ赤髪…。おれたちはいつものように席に座るが、赤髪はいわゆるお誕生日席と呼ばれるところに座り、右側にいる名前の顔をまじまじと見つめていた。そんな赤髪に対し名前はニコリと微笑みはじめましてと言った。
「お前が名前だな、会ってみたいと思ってたんだ」
え?と不思議に首を傾げる名前の手を取り、自分の方へ姿勢を向けさせると、視線を上下させ、名前の全身を見ているようだった。
その様子をおれ達も不思議に思いつつも見ていた。ただマルコは大切な娘が変なことをされないか目を光らせている。
名前の腕を握りその細さに驚くような表情を見せると、やっと口を開く。
「こんななりで天竜人ひっぱたくなんて肝の座ったやつだ」
「そんなっ…あはは」
あの赤髪に感心したように言われ、名前は恥ずかし気に笑う。名前にとっちゃ苦い思い出でもある事件だ。名前の反応を見て赤髪はさらにニコリと微笑んだ。
相変わらず、おっさんのくせに顔が整ってやがる。
「おれは根性座ったやつは好きなんだ」
「あはは、ありがとうございます」
名前が少し頬を赤らめ、それを見逃さなかった赤髪は掴んでいた腕を自分へと引き寄せると名前の顎を右手で軽く掴み顔をじろじろと見る。名前は驚いた表情をしてみせているが、赤髪にされるがままだ。
「よかったらうちに来ねぇか?」
「えっ…?」
ガタッ
その瞬間名前の肩が掴まれグイッと体が後ろへとひっぱられ、倒れそうになる彼女をしっかりとエースが支えた。もちろんおれの隣にいたはずのマルコは赤髪の胸ぐらをつかみに行っている。
「いくらあんたでもそれ以上はさせねぇぞ」
「赤髪…!」
「てめぇ、もう片方の腕もなくしてやろうか」
「そりゃ勘弁」
マルコの言葉を聞き、右手を挙げひらひらと手を振ると舌を出して笑って見せた。
こいつはこういうの誤魔化すのほんとうめぇ野郎だ。
「冗談だって」
「冗談でも許さねぇぞい」
「へいへい」
相変わらずマルコは堅いなぁ。と笑う赤髪に対し、名前があははと笑った。
ずんげー可愛いけど、なんで笑ってんの名前ちゃん。
首元にはエースの腕が回っていて背中には本人がぴったりくっついている。
「みんな本気になりすぎだよ」
「ははっ!ほら名前には通じたろ」
クスクスと笑う名前に続いて赤髪も笑いだすが、さっきのは絶対冗談なんかじゃなかった。おれと同じ考えを持ったのかエースは変わらず強い視線を赤髪に送ってる。
「それに、わたしは白ひげ海賊団なのでシャンクスさんのところには行けません」
「おいー名前それも冗談だろ?」
「冗談じゃないですよ」
笑いながらだが、しっかりと自分の意志を口にする名前のおかげで、おれ達3人の焦燥は少し収まったように思う。マルコもエースも席に座り直した。赤髪も茶化すが名前は雰囲気を壊さないようしっかりと断っていた。
「ま、どっちにしろ名前は渡さねぇよい」
「そーだそーだ」
「いやー、うちも女クルーを入れようと考えててよお手配書見たときから名前がいいなって思ってたんだよな」
「お前そのために来たのかよ」
「まぁそれだけじゃねぇぞ〜」
ニヤリと笑い、ごそごそとポケットの中を漁る赤髪を不思議に全員で見つめる。目当てのものが見つかったらしい赤髪はあったあった。と折りたたまれた紙を取り出した。
「エース」
「おれ?」
「見てみろ」
それを手渡されたのはエース。エースは若干理解できていないながらもその紙を開いていった。その紙を開ききると、エースは嬉しそうに口角を上げ目を輝かせてその紙に食いついた。
「ルフィ!!」
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