何か飲み物をとろうと夕食の準備をしている名前のいるキッチンへ入った時、カウンターに見覚えのないスマートフォンが置かれているのに気が付いた。
ルフィは持たせたらすぐに壊すだろうという判断からまだこういうものは持たせていない。おれは今赤色を使ってるし、たしか名前は白だ。ならこの黒色のは誰のだ?
冷蔵庫から取り出したお茶をコップに入れたお茶を一気に飲み干し、キッチン内を忙しそうに動き回っている名前に尋ねた。
「なぁ、これって誰のだ?」
「ん?」
なんのこと?とこちらを向いた名前にスマホを指させば、あぁ。と納得したように頷いた。
「大学でね拾ったの」
「拾った?」
「うーん、拾ったっていうか、図書館に誰かが忘れてたみたいでね」
名前は止まっていた手を再び動かしながらおれに説明してくれた。
「すぐに事務に届けようと思ったんだけど、うちの大学って届け物返してもらうときとか、結構時間かかるのよ。これスマートフォンだし、落とした人が電話掛けてくるかなと思って、持って帰ってきたの」
まぁまだ電話は来てないんだけど。少し笑った名前になるほどなとおれも納得する。大学事情はわからねぇけど、落とし主のことを考えている辺りが名前らしい。
「見つかるといいな」
「うん」
微笑む名前におれも笑い返して、夕飯の準備に取り掛かった。
夕飯を食い終わって、ルフィと共に風呂から上がった時リビングから名前の話し声が聞こえた。
「はい、わたしは大丈夫ですよ。 ふふ、いえ、気にしないでください」
「落とし主からか?」
通話が終わったことを確認して声を掛けると、名前は振り返って、もうあがったんだね。とかわいらしく笑った。
「ずいぶん探したみたい。 大学で会うことになったよ」
「そっか、良かったな」
「うん、ありがとね」
優しく微笑む名前におれも返し、ソファに座ってテレビをつけた。
この時のおれは、これから起こることが人生最大のピンチになるなんて思ってもみなかった。
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