第一印象は普通。
サッチがセッティングした合コンに名前も参加してたのがおれらの出会い。

見た目は悪いわけじゃないけど、そこまで美人でもない。
それに、飯のときも気が効かず、他の女たちが必死でアピールしているのに対し、名前は自己紹介だけ済ませてつまらなそうに飯を食ってた。


もちろんおれたち男どもの中でも最下位。


だけど、あいつ、魚の食べ方はすっげー綺麗だった。
それだけ、おれの中で引っ掛かった。

なんだろうな、自分でもよくわかんねぇんだけど。
そんな名前に、おれは惚れちまったんだ。


一応合コンが終わって、二次会にカラオケに行こうと盛り上がっているサッチたち。
だが名前は女友達に一言告げてそのまま駅の方へ歩き出してしまった。
おれもいつもなら二次会にも参加するんだけど、どうしても名前が気になって、その後ろ姿を追いかけた。


「おいっ!」


おれが掛けた声に振り返った名前は心底驚いた顔でおれを見た。
そんで、なんですか?と言う。


「いや…、えっと、おれお前のこと気になってさ、連絡先教えてくんね?」


我ながらストレート過ぎたと思う。
だが名前は明らかに困った表情を見せた。


「…ごめんなさい、わたし、彼氏いるんです…」
「はっ……?」


彼氏いるのになんで合コン来るんだよとか普通なら思うんだろうけど、そういう考えはそん時のおれの中には浮かばなかった。


「あの…、友達に人数合わせで来てほしいって言われて…、その、ごめんなさい…!」
「一番じゃなくていい」
「えっ…?」
「二番目でいいからさ、お前が困ったときとか、ひとりでいたくないときとか、都合よくていいから、頼む」


彼氏がいるから、ときちんと断ろうとする名前を押し切り、おれは無理矢理名前と連絡先を交換した。





それから、一日何通かメールを送るようになった。でも名前から返ってくんのは一通くらい。それでもなんだかんだ続いていた。

そんなある日


《今日ご飯行きませんか?》


初めて名前から誘ってくれた。おれは嬉しくて飛び跳ねそうだった。
すぐに承諾の返事をして約束した居酒屋に行った。

だが、名前は来なかった。30分待っても1時間待っても、2時間経ったところで、ようやく連絡が来た。


《ごめん彼に呼び出された…。また今度でもいいかな》


がっくり。目の前のテーブルに頭を打ち付けた。
いや、でもこんなこと初めからわかりきってたことだ。あいつには彼氏がいる。おれが自分で言ったんだ二番目でいいって。だから仕方ねぇよな、おれはあいつを待つことしかできねぇんだ。


「おい、ビールくれ」


仕事帰り、サッチと居酒屋でのんでいるときに、先日の名前の話をしたら腹を抱えて笑われた


「しょげねぇのな!」
「あたりめぇだろ、最初からわかってたことだし」
「お前がそこまでするほど良い子だったか?」


サッチに不思議そうな目を向けられる。こんなにもストライクゾーンの広いサッチでさえもこう思うんだから名前はやっぱりそこまでいいやつってわけではないんだと思う。おれだって可愛いとか思ったことはないし。


次の日も仕事だったから、その日は日付が変わる前に解散した。

















ピピピピピッ


布団に入って眠っているとき携帯が鳴った。手探りで携帯を探し出し、相手が誰なのかも確認せずに通話ボタンを押した。


「んー。誰だぁ…?」
「わたしーー…」
「名前?」


声の主は紛れもなく名前だ。会ったのはたった一回だけだけどちゃんと覚えている。名前は語尾が伸び伸びで、どうも酒が入っているようだった。


「○○駅の近くのバーにいるんだー、今からきてぇー…」


「えっ、おいっ!」


そのまま通話は切られた。
携帯の画面で時間を確認してみると深夜2時を指している。


「マジかよ…」


でもあの様子じゃかなり酔ってるみたいだった。もう終電もとっくにない時間だし、ここからタクシーつかえば15らいで行けるか。しょうがねぇな。と上着を羽織家を飛び出した。















「名前ッ!」


駅前にバーはひとつしかない。そこに入ると、カウンターで伏せている女がいて、すぐに名前だとわかった。
近づいて行けば、バーテンダーに安心したように微笑まれた。


「よかった。ひとりで帰れるのか心配だったので誰か呼ぶように言ったんですよ」


それでおれかよ。
おれは、ぐでっと腕を伸ばして伏せている名前に近づいて肩を揺すった。


「おい名前、帰るぞ」
「んんっ」


こいつ、どんくらい飲んだんだよ…、つかおれ、あんま持ち合わせねぇぞ。
こんな状態のやつの財布から金をとるのも気が引けるし…。
おれのそんな思いが通じたのか、バーテンダーが今度でいいですよ。と言ってくれた。
それに礼を言い、名前の腕を肩にかけたが、名前は目を閉じたままふらついたので腰にも手を回して支えた。
それから、椅子に掛けてあったバッグと上着を持って店を出た。

店の前に停まってもらっていたタクシーに向かい、名前を乗せた。
すぐに眠りにつきそうになる名前に慌てて住所を聞き出そうとするが、理解していないらしく、うー。とか唸るばかり。


悪いと思いつつも、バッグから免許証を取り出し住所を確認するも、おそらく実家のもので、タクシーで行きつけるような距離ではなかった。
まだかよ。みたいな運転手の視線に苦笑いを返し、ついにやばいぞと焦り出した。
…あれ、こいつ彼氏いなかったか?

なんで彼氏呼ばねーんだよ…。


「名前、いい加減に起きろよ。家どこだ?」
「いえ……、帰れない…追い出された……」
「はぁ!?」
「んー…、あたまいたい…」


そのまま完全に眠ってしまった名前に、開いた口が塞がらなかった。


「まだですか?」
「あっ、あぁ、わりぃ、さっきのアパート戻ってくれ」
「はいよ」


おれも乗り込むとタクシーが動き出し、名前はおれの肩を枕にして寝息をたて始めた。





「うぅ…、頭痛い」
「どんだけ飲んだんだよ…」


アパートの前にタクシーを止め、そのままこいつを担いで部屋のソファに寝かせた。
水を一杯汲んで渡せばそれを一気に飲み干し、そのままソファに倒れ込んで眠ってしまった。

はぁ。と溜息が出る。勢いとはいえ自分の部屋に連れてきてしまった自分にもだが、自分を好きだという男の部屋で無防備に眠るこいつもこいつだ。
軽く髪を撫でれば少し目元が動いた。長期戦は覚悟してた、こいつに彼氏がいると言われたあの日から、でも、ここまで男として意識されていないとなるとさすがにへこむ。もう可能性なんてないんじゃないかと思う。でも、好きなんだよな…。

おれはソファで寝こける名前を抱きかかえてベッドへと運んだ。


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