爆撃の後、エースくんは甲板へ、わたしは操舵室へ急いだ。


操舵室の扉を開けばデュースさんを筆頭に数人が慌ただしく操舵輪や海図を前に頭を抱えていた。



「名前!!」



一人がわたしを見つけ、それに釣られるように全員がこちらを向いた。
涙目のデュースさんがわたしを部屋の中へ歓迎してくれる。

事情を聞けば、島を出てから何度振り切っても海軍が追ってくるのだと。
さっきミハールさんやエースくんから聞いた通りのことが起こっているのだとわかった。

どうやら襲ってくる軍艦は毎回同じというわけではなく、こちらの体制が落ち着く間もなく次々と襲ってきているらしい。

こちらの体力も僅かになってきている。
そもそも新世界の不安定な海を航海しながら続けざまの敵襲は処理しきれない。



「やっぱりお前じゃなきゃ無理だ。なんとかできるか!?」
「やれることをやります!」



甲板の様子を見る。まだ船同士は接触しておらず、誰かが侵入してきた気配はない。

空、海、これまで辿って来た航路、海図、これからの天気。それらを考慮してどうにか逃げ道を探さなければ…。











なんとか軍艦を撒いてみんなでホッと息を吐く。
操舵室にいる全員が机に突っ伏したり、椅子にへたりと座ったり。

今回は直接的な戦いはなかったけれど、何度も敵襲に応戦していた数人が甲板にバタバタと倒れ疲労が目に見えた。


でも…どうしてこんなに何度も軍艦に見つかるんだろう。
これまでの航海でもここまで集中して攻撃を受けたことはない。



「一体、何回襲撃されてるんですか…」



わたしの質問にデュースさんが目を閉じて、んー。と考える仕草。



「5…か、いや今ので6か」
「そんなに…」



この広い世界の海で一日にこんなにも軍艦と遭遇するものだろうか…。

何かがおかしい。


頭の中で警鐘が鳴る。



「上手く撒いたな」



いつのまにかエースくんも操舵室に来ていて、一緒に部屋の中心にあるテーブルを囲う。



「おぉ、エース。今回は名前が上手くやってくれたが、こう何度も襲撃されてちゃ、こっちが潰れるのも時間の問題だぞ…」



デュースさんの言葉はまさにその通りだった。
甲板で寝転がるみんなを見てわかる通り、かなり消耗している。

海軍がこの船を狙っているのは確かで、立て続けに襲うことで消耗させようとしていることもわかる。だけど、海軍がわたし達の行く先を知り得る方法がわからない。


テーブルに置いた海図にはデュースさんが海軍の襲撃にあったポイントを記してくれている。

だけど、そこはログ上の次の島への航路というわけでもない。
今回の襲撃もあって、本来の航路からは大きく外れている。


なのに6回も…

偶然でここまで遭遇するなんて…、ありえない…。


この広い海、ましてや新世界で航海をする船なんてかなり限られている。


考えろ。考えろ…。


“まるでこちらの居場所がわかっているようにね”


ミハールさんの言葉が思い出される。



「こっちの場所がバレてる…」



わたしの呟きにデュースさんもエースくんも動きを止めた。


二人に見られる中、目を閉じて考える。


“賞金稼ぎなの!?”
“へへ、実はそうなの”

“両親を知ってる人が多いからかなぁ”



不意に思い出されるユマちゃんとの会話の記憶…。


どこにいるのかわからない相手の居場所を知る方法…
頭の中で一つの可能性が浮かんだ。


ハッと目を開く。



「そういう…こと…」
「どういうことだ?」



わたしの確信めいた呟きを二人が聞き逃すはずもなく、険しい表情を向けられる。



「エースくん、少し部屋に行ってくる」
「あ?」
「気になることがあって…!」



わたしの言葉に、エースくんは一瞬止まって固唾を飲んだけど、わかった。と頷いてくれた。

すぐに操舵室を飛び出す。



自室につき、まず机の上から引き出し、棚の中まで、あると思われるものを探す。



「一体どこに…」



本棚の隙間や本を逆さにして頁の間に至るまで探す。
机に広げている描きかけの海図に横には今まで描いたもの。



「……あった」



海図の束の間にそれはあった。
手に取って見ればズズズッとわずかに動き、切れ端と集まろうとその方角を示す。



「ビブルカード…」




掌に乗るサイズ。四つ折りにされたその紙を開いていけば文字が書かれていた。



“見つけてくれたね。なかなか渡すタイミングが見つからなかったの。両親以外で渡すのは名前が初めてだから…、なくさないでね!   ユマ”



「ユマ…ちゃん…」



ギュウッと胸が締め付けられ、ビブルカードを握り締めしゃがみこんだ。


これはわたしへの罰だ…。

初めてできた大切な友達を裏切った罰…。


目の端に涙が溜まり、頬を伝って床へと落ちていく。



「ごめんっ…ごめんなさい…っ」

[ 46/114 ]

[*prev] [next#]


もくじ




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -