あの日からから数日、ユマちゃんは船に戻らなかった。

そして、次の航路へのログも溜まり、出航日となった。

甲板ではエースくんとわたしを囲って人が集まる。
みんな物珍しいものを見る目でわたし達を見つめていた。



「ユマは置いてく」
「でも…!もう少し待てば戻るかもしれない…!!」



エースくんに食い下がるわたしを見て、みんなは驚きを隠せていない。
デュースさんも目を見開きつつもことの行く末を見守っていた。

もう少し待ってほしいと懇願するわたしに、エースくんは困った表情を見せた。



「この船に乗るも降りるも全部ユマの決めたことだろ」
「でも…」



降りる決断をさせたのは…わたしだ…。



「待てばユマが戻るとも限らねぇし、待つ意味はねぇだろ。おれ達は先へ進まなきゃいけねぇんだ」



無言で見つめ合う。
エースくんの言っていることは正しい。
ここで待ったところでユマちゃんが戻って来る確証はないし、ユマちゃんに戻る意思すらない。
でも故郷を出てまでエースくんについて来たユマちゃんを思うと、このまま見捨てるような形で別れるようなことはしたくなかった。


「あのよー、お二人さん…」


無言で見つめ合い、互いに一歩も譲らないわたし達を見兼ねたのかデュースさんがそっと口を挟んだ。



「何かあったのかは知らねぇが。黒電伝虫の受信でこの島に海軍の船が向かってるって情報が来てる。急がねぇと前と同じ状況になっちまうぞ」



前と同じ状況…。以前エースくんが囮となって島に残った時のことだ。
前と違うのは今なら全員揃って出航できるということ。

いや、揃ってない。ユマちゃんが戻っていない。

ユマちゃんを探し出すのにどれだけ時間がかかるかわからないだけでなく、彼女に戻る意思がない状態では、出航を遅らせるのは全員を危険に晒すことと同じことだった。

そうわかってはいても、簡単に頷くことはできなかった。

見つめ合うわたしとエースくん。

先に視線を外したのはエースくんだった。



「この船の船長はおれだ。船を出す。みんな準備してくれ」



エースくんの指示が出て待機していた人たちが動き出す。
みんながそれぞれ出航の準備を始めた。



「エースくん…!!」
「ここにいる仲間を危険に晒してでも待つってのか?」
「……待つ」



必死で考えてそれでもその答えしか出ない。
そんなわたしをエースくんは少し驚いた表情で見下ろす。
それをジッと見返していれば、エースくんは目を伏せて諦めたように息を吐いた。



「わかった…。なら仕方ねぇな…」


そう呟いたのが聞こえて、よかった。と安堵の息を吐いた。
パッと自分の表情が明るくなったのがわかった。



「ありが……っあ」



突然頚部に感じた痛み。
それを認識するころにはわたしの身体は前かがみに倒れて、そのままエースくんの腕に抱き留められた。

最後に見えたエースくんの表情は何かに耐えるような辛そうなもの


どうして…、そんな辛そうな顔をするの…。


その言葉は口にできないまま、わたしは気を失った。














「ぉおい!エース!何も手を挙げることはねぇだろ…!!」



エースに抱きかかえられた名前は力なく意識を失っていた。



「いいから、船を出すぞ」

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