あっという間に3日が経った。
今日エースくんは旅立ってしまう。

わたしは見送りにくらい行かないとまずいかなとコルボ山への道を歩いていた。
さすがにわたしは行かないけど、せめてもと思って航海の本を持ってきた。
これをエースくんに渡して彼の航海に少しでも役立ててもらおう。そして、わたしはもう航海術の勉強はやめる。

海軍には入らない、海賊になる勇気もないけど、彼らがこの村へまた帰って来てくれた時のためにわたしはここにいよう。

そんなことを考えていればやっとあのダダンさんの家が見えてきた。
心の中に懐かしい感覚が蘇る。


「楽しかったな」


ふとあの3人と遊んだ日々を思い出して口角が上がる。
と、ダダンさんの家の前に誰かが立っているのが見えた。


「あ!名前!おっせーぞ!エース行っちまうよ!!」
「ルフィ!?わぁ大きくなったね…」


と感動の再会もさながら、ルフィは瞬く間にわたしを担ぎ上げると猛スピードで走りだす。さっきやっと近づいたと思ったダダンさんの家はあっという間に小さくなっていく。
森を抜け視界が明るくなったと思ったらルフィは止まった。
微かに潮の匂いがして海に来たのだとわかった。


「エース!名前来たぞ!ほら行くぞー!」
「おぉルフィ!ありがとな!」


背後でこんな会話がなされ、身体に巻き付いていたルフィの腕から解放される感覚、だけど、地面に足はつかない。
徐々にルフィの後ろにいたマキノさんや山賊のみなさんが見える。みんな笑顔で手を振ってるけど、それがだんだんと遠ざかっていく。

なんだか全てがスローモーションに見えて、気づくと内蔵が浮くようなフワッとした感覚。
自分は投げられたんだと悟ると、声にならない悲鳴がでた。


「ヒィぃぃっ……!!」


海岸の上にいるみんなを見て、自分はこのまま海に落ちてしまうのだと思った。
ギュッと目を閉じ、来るであろう衝撃に備える。だけど、ふわっと身体が温かい何かに包まれた。想像していた衝撃が来なくて目を開けると、間近にはエースくんの顔。


「あ、れっ、えっ…」


エースくんに受け止められたのだとわかるも彼はわたしを下ろそうとはせずそのままルフィと会話をしている。


「じゃあなーー!!」


状況がわからずに固まっていると、そんな声が聞こえて慌てて身体を捩った。
だけど、エースくんの腕の力が凄すぎて全然抜けられない。


「名前も元気でなー!!」
「ル、ルフィ〜!!」





彼が降ろしてくれたのはもう島の形も見えなくなったころだった。


「わたし一緒に来るつもりなかったのに…!!」
「何言ってんだよ、しっかり本持って来てるじゃねぇか」
「これは!エースくんにあげようと思って!」
「おれこんなの読めねぇから。お前が持ってろ」


そう言うと小さな船の端に移動したエースくんは縁に腕を置いて口元を手で隠しながら遠くを見た。きっと出航できたことがうれしいのかな、口元が緩んでるのが隠せてない。

そう言えば、ルフィは一緒じゃないんだ。子どものころからあぁ言ってたから二人は一緒に海賊になるものだとばかり思ってた。


「なんだよ?」


ずっと顔を見て考え事をしていたためか、エースくんは怪しいものを見る目を向けて言う。未だに鋭い視線のエースくんは慣れなくて「あ、う」とどもってしまう。


「ル、ルフィは一緒じゃないんだなぁ…って、思っただけ…」
「あ?」


さらに鋭い視線が飛んできて、やってしまったと思った。
エースくんは昔からわたしがサボくんやルフィと仲良くするのをよく思っていなかったのに、エースくんの前でルフィの名前を出してしまうなんて。
自分の失態を誤魔化そうと苦笑いを浮かべるも、エースくんは少し不機嫌な表情のまま。


「あいつはまだ14だから3年後に出発する」
「あ、そうなんだ」
「なんだよあいつと一緒のが良かったかよ」
「そ、そういうわけじゃ…」


やっぱり怖い。
7年ぶりに再会した時はなんだか勢いで話せてたけど、やっぱりエースくんのイメージは変わらない。これからずっと一緒なんだと思うと少し不安が募った。


「も、目的地は決まってるの…?」
「え、いや、適当に進めばなんかあるかなって」
「う、うそでしょ…!?」


まさか本当に何の考えもなく海に出てしまったのか。絶望するわたしにエースくんは「航海士のお前が頼りだ」となんとも自信満々に言った。

もしかして…、航海士が必要だからわたしを連れ出したのかな。
海賊になるために仕方なく身近にいたわたしで妥協した。…つまり、もし本当にわたしなんかよりも優秀な航海士が現れたら、わたしなんてすぐに見限られて…どこかに置き去りに…。

どよん。と心に不安が重くのしかかる。


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