「本当にありがとうございました」


90度、それ以上に頭を下げる。
目の前の彼女は、「大丈夫だよー」と軽く手を振ってわたしの頭を上げさせた。


「気を付けなよ。あなた可愛いんだから」
「そんなことないです…。本当に助かりました」


助けてくれたのはさっきの彼女で、なんとあの男たち3人をたった一人で倒してしまったのだ。それも素手で。


「一体どうしてあんなところにいたの?裏路地なんてどの島でも危ないでしょ」
「あの、時計台に行こうとして…迷っちゃて…」


迷子になっていたなんて自分で言うのは恥ずかしい。
少し顔を伏せながら時計台を指差すと、彼女は笑った。


「あの時計台ねー、名物だけど実際行くと結構がっかりだよ?」
「そ、そうなんですか?」
「うんうん、でも案内してあげるよ。ついでに他のところも!あなた一人じゃまた絡まれちゃいそうだしね」


彼女はパチンとウインクしてくれた。
なんて良い子なの…!!

彼女の名前はユマちゃん、やっとお互いに自己紹介をした。
時計台までの道のり、途中で食べ歩きをしたり、ユマちゃんおススメのお店に入ってアクセサリーを買ったりした。


「えぇっ!!?賞金稼ぎなの!?」
「へへ、実はそうなの」


途中、お互いの話をしているとユマちゃんが少し気恥ずかしそうに話してくれた。

なんでもユマちゃんのご両親は海軍本部で働いているみたいで、現在ユマちゃんは一人暮らし。ご両親の影響でこの島のパトロール的なものをしているうちに海賊を捕えるようになり、賞金稼ぎとして生活するようになったらしい。


「うそ…」


こんなにも仲良くなれたのに…。
わたしは正体を明かせなくなってしまった。

わたしが海賊だとわかったら彼女はきっとわたし達の船を…。
そんなこと、考えたくない。

彼女との関係も今日一日でお終いになってしまうのか…。


「女だし、大したことないけどね。名前みたいに女の子らしい子とかすごく憧れるんだー」
「そんなこと…ユマちゃんすごいね…」
「名前は?乗ってる船で仕事してるの?」
「わたしは…航海士なんだ」
「へぇー!すごい!あたしバカだから無理だー」


ケラケラと笑うユマちゃんに罪悪感が広がる。
困っているわたしを助けてくれるような正義感を持つ彼女に、自分が海賊団の一員であるとは、どうしても言えなかった。


「ここが時計台だよ!」


ユマちゃんの声に顔を上げる。
そこにはレンガ作りの大きな時計台があった。
その前には噴水とベンチが並べられていて、憩いの場って感じだ。
周りには緑もたくさんあって、とっても素敵な場所。


「ちなみにこの時計台は島のどこからでも見えるようになってるの!」
「すごい…!全然がっかりじゃないよ!」
「えー、そう?あたしが見慣れただけかなぁ」


そんな話をしてクスクス笑う。
やっぱりユマちゃんと話すのは楽しい。


「名前!!」
「エースくん!?」
「エース…?」


そんな時、突然掛けられた耳慣れた声に振り向くと、膝をついて肩で息をするエースくんがいた。正確には下を向いているから、まだ顔は見えず、オレンジのテンガロンハットだけが揺れている。


「やっと見つけた…」


街中探し回ったぞ

と手を引かれる。
両肩に手を乗せられ、目の前にエースくんの笑顔が広がった。


「無事でよかった…」
「ごめん、探してくれてたなんて…」


ちょっとした戦闘では息を切らさないエースくんがここまでなるなんて、相当探してくれていたみたいだ。途端に申し訳なさが溢れてくる。

「あぁぁーー!!火拳のエース!!」
「あ?」


突然の背後での絶叫にビクッと肩が揺れた。
エースくんは怪しげに眉を寄せてわたしの後ろを見る。後ろにいるユマちゃんを。

ユマちゃんに気付かれてしまった。
そりゃあエースくんは七武海を蹴ったルーキーで有名だ。
賞金稼ぎをしているユマちゃんが知らないはずはない。


「名前、こいつ誰だ」
「なんで火拳のエースがこの島に!?え、名前の知り合い!?」


どちらにどう説明をすればいいのかわたしが頭を抱えた。
こういう時、状況判断が上手なデュースさんが羨ましい。






「まだ、信じられない名前が海賊だなんて…」


それに火拳のエースの船…。
それぞれに説明をした後もブツブツと一人ごちるユマちゃんに、そりゃそうだよね。と心の中で呟く。


「んで、お前はおれらを捕まえるのかよ」
「エースくん!!」


そんなドストレートに言っちゃうの…!?
わたしだって、薄々考えていたことだけれど、聞くに聞けなかった。
わたしが大きな声を出したことでエースくんは「なんだよ」と戸惑っていた。

そんな中、ゴーン。と時計台の鐘が鳴った。
夕方の5時になったようだ。朝に上陸したこの島にも結構な時間いたんだと改めて実感する。
エースくんの言葉に思案している様子だったユマちゃんは鐘が鳴り終わった後、顔を上げた。


「あなたたちは捕まえない!」
「いいの…?」
「名前は友達だし!!この島に何か危害加えたら容赦しないけど」
「ユマちゃん…」


ユマちゃんの言葉にわたしは涙がこぼれそうだった。
エースくんも「上等だ」と笑った。

ユマちゃんにとっては自然と発しただけであろう「友達」という言葉が心の奥底まで広がっていく。
友達が…できた。

エースくんが、頭に手を乗せてきて、重みで顔が下がる。
その瞬間涙が一つ地面に落ちた。

きっとエースくんはわたしが泣いているのに気付いている。

優しい。

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