良くない情報が入ったとデュースさんから連絡がきた。

その話を聞いたエースくんは心底嫌そうな表情を浮かべていて、わたしの頭に手を乗せ、少し迷う素振りを見せてから口を開く。


「あー、やっぱ一旦行ってくる。すぐ戻るから」
「うん、気を付けてね」
「お前こそあぶねえとこ行くなよ」


すぐ戻る。と手を振る彼と別れ近くの市場に行った。

カラフルな野菜や果物が目の前に広がり、わっと気分も上がる。
何か買おうかなと一つ手に取ってみた。


なんだかとても穏やかな気分。
エースくんと二人で緊張はしていたけれど、これまであった緊迫感は感じなかった。
はやく戻って来てくれないかなとすら思っている。

それに、さっきのエースくんの心底嫌そうな表情を思い出して少し笑みが零れた。


「トマトならこのハリのある赤いのがいいよ」
「へっ!?」


突然掛けられた声に驚いてみれば、隣に女の子がいた。
彼女はニコッと笑うと首を傾げる。


「あれ、トマト選びに悩んでるのかと思って思わず声かけちゃったんだけど、違った?」
「あ、え、そ、そうですね。すみません驚いちゃって」


わたしが止まってるから悩んでると思ってくれたみたいだ。
人懐こそうな彼女は「んーん!」とにこやかに笑ってくれた。
少し赤みかかった髪に太陽が反射して眩しい。

あ、なんだかエースくんみたい。

彼と話すときにもよく眩しいと感じる。


「旅人さん?この辺で見かけないなって」
「そ、そうなんです。今朝この島について」
「そっかぁ。トマトはね、この島の名物なんだよ。よかったら食べてみてね!」
「ありがとうございます」
「じゃね!また会えたら」
「ふふ、はい」


手を振って去って行く彼女を見送る。
ショートカットの眩しい赤髪、ノースリーブにショートパンツでまさに動きやすさ重視って感じの恰好。性格も明るくて快活。わたしと正反対だな…。

たったあれだけの会話で彼女がとても素敵な女性だということが分かった。

彼女の後ろ姿を見ていれば、市場の人たちにも次々に声を掛けらていてきっとみんなの人気者なんだろう。
あぁいう人はすごく憧れる…。



---



あぁ、最悪だ…。

折角、お買い物を楽しんでたのに。
あの彼女におすすめされたトマトも買って、スペードのみんなにも食べてもらおうって思ったのに。

すこし街を外れればこれだ。

目の前には卑しい目が6つ。
3人の男に囲われている。

街の中心にあるという時計台。ぜひ近くで見てみたいと思ったものの、土地勘がないものだから裏道に入ってしまった。そこは少しガラの悪い人たちが多くいたようで、ものの見事目を付けられてしまった。


「こんなとこに一人で来ちゃうなんて、あぶねーぞぉ?」
「おれらが案内してやるからさ、こっち来いよ」
「け、結構です…!!」
「大丈夫だって、何もしねぇからー」


そう言って、腕を掴んでいる手はなに…!!

そうは思っても恐怖で上手く声が出ない。

あぁ、危ないところに行くなって言われてたのに…。
エースくん…!!


「ちょっとあんたら、女の子一人に何人たかってんのよ」


救世主が現れた。

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