エースくんとの出会いは、特別いいものではなかった。
東の海のフーシャ村で両親とともに暮らしていたわたしは近所の歳の近かった男の子ルフィとよく遊んでいた。ルフィは好奇心旺盛で誰にでも分け隔てなく接してくれて、人見知りでなかなか友達が出来なかったわたしの初めての友達だった。
そんなルフィがある日を境に姿を現さなくなった。
ルフィ以外に友達のいなかったわたしは他の子と遊ぶわけでもなく毎日お店の手伝いをして過ごしていた。とある日、マキノさんのお店にお遣いに行ったとき、偶然にもルフィと再会した。
「名前!ひさしぶりだなぁ!」
「ほんとに…!一体どこにいたの?」
突然村に姿を現したルフィは二ヒヒッと前と変わらない笑顔を見せてくれた。
オレンジジュースを入れてもらっているルフィはここ座れよ!と隣の席を指した。
「おれ今コルボ山に住んでるんだ!」
「えぇっ、あのコルボ山!?山賊がいるって言われてるところだよ?」
「その山賊のところで住んでんだー」
前に山賊に殺されかけていたのに?とわたしが驚いた表情を見せればルフィはそれを気にも止めず「そーなんだよー」と鼻に指を突っ込んだ。
「おれ山賊嫌いなんだけどなぁ。あ!けどなおれに兄ちゃんが出来たんだ!二人!エースとサボっていってー」
ポンポンとルフィのペースで進んでいく会話になんだか懐かしさを感じた。
なんでもルフィの話によるとそのエースとサボはすごく強いんだそう。ルフィは勝てたことがないらしい。といってもルフィを強いと思ったことは一度もないけれど。
ルフィはなんだか不思議な果物を食べてから身体がゴムのように伸びることが出来るようになったらしい。いつもゴムゴムの〜って腕を振り回していたけど、彼の必殺技らしい。
彼らは将来に海賊になると誓いあったみたいでそのための修行を続けているそうだ。
少しのはずが随分と話し込んでしまい、最後に遊びに来い!と誘われた。
あの山にはあまり近づくなと両親に言われていたため返事を渋ると、マキノさんが今度行くときに一緒に連れてってもらうことになった。
「あ!マキノー!名前ー!来たなー!」
マキノさんと村長と一緒に山道を進んで行けば大きなおうちがそこにはあった。
「こいつ友達の名前!こっちがおれの兄ちゃんのエースとサボだ!」
元気よく紹介してくれたものの、目の前にいる黒髪のエースくんからは軽く睨まれたあと目を逸らされた。エースくんの反応から歓迎なんてしてくれている雰囲気ではなくて不安になっていると、その隣にいた金髪のサボくんは笑顔で手を出してくれた。
「よろしくな名前!こいつは照れてるだけだから気にすんな」
「おいサボッ!」
余計なこと言うな!と真っ赤になったエースくんが怒ってそれを見たサボくんがクスクスと笑った。
その日から頻繁にルフィに誘われるようになりわたしもコルボ山で遊ぶようになった。
最初はキツく感じていた山登りも一ヶ月もすれば慣れ、いつも速い3人について行こうと必死に走った。
たくさんのことをした。川で魚を撮ったり、熊を倒すんだと頑張る3人とともに作戦を考えたり、3人が作ったという小屋で遊んだり。毎日楽しかった。
村でだったら絶対に出来ない遊びや発見が山の中だと毎日のようにある。
「名前、気を付けろよ小さくでもワニだぞ」
「う、うん…!!」
大きなワニを仕留める3人には敵わないけど、サボくんに教えてもらって小さなワニくらいなら一人でも仕留められるようになった。
「よく頑張ったな」
「すっげーな名前!エースも見ろよ!名前がワニ獲ったんだってよ!」
「……」
サボくんは頭を撫でてくれて、ルフィも喜んでくれた。
サボくんはずっと変わらず優しくて、いつも遅れるわたしの手を引っ張って連れて行ってくれる子、対してエースくんとはまともに話せず、わたしがワニを捕まえたときにも横目で見ただけでどこかへ行ってしまった。
エースくんは初対面からずっとわたしが気に食わないのか全然話をしてくれてない。
わたしがこうしてサボくんやルフィと話しているときは必ずと言っていいほど睨みつけてくる。きっと3人で今まで楽しく遊んでいたところに他所者のわたしが入ったことが嫌なんだろう。
わたしもそんなエースくんに歩み寄る勇気もなくて、優しいサボくんとルフィに甘えていた。
3人はときどき街の方へも行ってるみたいだった。その時だけはエースくんに「お前は来るな!」と言われ一人ダダンさんの家の手伝いをした。
「名前は女なんだからあんなクソガキどもと一緒にいることはないんだよ」
「でも、楽しいから」
「……」
あの3人と遊ぶことにダダンさんは良い顔はしなかったけど、止めたりはしなかった。
将来海賊になるという3人にわたしも付いて行きたいと思っていた。
とある日、サボくんがいなくなった。
ルフィは泣いていて、もちろんエースくんは何も教えてくれなかった。ダダンさんたちから聞いたのはサボくんが殺された。というそれだけだ。
その日を境にわたしはコルボ山には行かなくなった。
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