目が覚めて、緩んでいたエースくんの腕から抜け出す。彼の体は変わらず冷たくて、だけど穏やかに眠る様子を見るに、昨日よりも悪化していることはなさそうだった。

頬に手を乗せると、くすぐったそうにすり寄ってきた。そんな仕草に胸の辺りがジンと熱くなる。


「少し外見てくるね」


聞こえていないだろうと思いながら声をかけて外の様子を伺う。
昨日の到着時とは違い、眩しいくらいの陽の光に照らされて、木々たちは煌々と輝いて見えた。
太陽の方角、風の方向、風速、潮の匂い、目を閉じてそれらを感じる。潮の匂いから海はそう遠くない気がする。問題はこれからだ。

エースくんと、反対の海岸へ向かって、白ひげ海賊団が来てくれるのを信じて待つか。いつか見つかるかもしれないけれど、エースくんの体調が回復するまでここに留まるか…。

どちらの選択をするべきなのか、わたしにはわからなかった。選択を間違えて、エースくんを失うなんてことになったらと思うととても堪えられない。


「おい…」


声がして、振り返る前にふわりと腕が回って後ろから抱きしめられる。肩にエースくんの頭が乗って、頬に髪が当たった。


「動いて大丈夫…?」
「勝手にどっか行くなよ…、焦った…」
「どこにも行かないよ」


腕の力が緩んでエースくんと向かい合う。エースくんの手が頬に触れて、目元を擦られる。切なそうにわたしのことを見つめるものだから、その手の動きも相まってくすぐったい。


「…昨日より腫れ引いたな」
「うん…、エースくんは…?」


片腕はわたしの肩に乗せたままで、やや体重を乗せているところをみるに、やっぱりまだ少し辛いんだと思う。体調を確認すれば、あまり良さそうな反応ではなかった。


「まぁ、ひどくはなってねぇけど、能力は使えねぇままだな…」
「そっか…」


右手を見つめるエースくんは、悪い。と力なく笑った。


「そんな…、謝らないで…、わたしのことを助けに来てくれたのに…」
「いや…、能力使えなかったらこの島から出れねぇってのに、情けねぇ…」


エースくんは何かを考えて、悔しそうに手を握りしめた。


「おれはいつも中途半端だ…」
「そんなこと…」
「…名前」


両手で頬を包まれて、辛そうだけど真剣な瞳と視線がぶつかった。そのままゆっくり、エースくんが近づいてきて、流れるままに目を閉じると、久しぶりの感触が唇に降りてくる。触れ合う場所はすぐに熱を持って、熱いくらいだ。触れられている手からわたしの熱が伝わってしまいそう。小さくリップ音がして、目を開けばまた同じようにエースくんの瞳が見えた。


「っなんで泣いてんだよ…」
「えっ…」


すっと、頬を伝った涙は無意識に流れたもので、その理由は自分にもわからなかった。困ったようにエースくんが指で拭ってくれて、また名前を呼ばれる。その声がいつもよりも低いのは気のせいだろうか。肩を掴まれてまた視線が合う。


「おれ、ずっと…」


心臓がバクバクうるさい。エースくんの口の動きから目が離せない。風の音も、木々が揺れる音も何も聞こえなくて、自分の耳がエースくんの言葉だけを選び取っているようだった。瞳が揺れる………、エースくんが続きを言おうとしたその時、




パァンッ!!


「名前ッ!」


突如響いた銃声に鳥が木から飛び立つ。腕を引かれ、エースくんの背に庇われた。そのおかげで、銃弾が当たることはなく、山小屋の扉に小さな穴を開けただけだった。だけど、その出来事が非常にまずい事態だということはすぐに理解した。

銃弾が飛んできた方向を見れば、数十名の海兵たちが木々の中から姿を現し、山小屋全体を取り囲む。そしてわたし達の前に姿を現したのはユマちゃん。


「あの様子じゃ島からは出られてないと思ったけど、ここにいたなんてね」
「ユマ、お前……」

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