ずるいから好きです


朝のラッシュって困りものだよね。
私の住んでる岩鳶町だって、通勤時の電車はかなり混みます。電車の本数少ないし。

『閉まるドアにご注意下さい』
「おわっぷ!」

いきなりサラリーマンに背中を押される。閉まったばかりのドアに身体を押しつけられた。痛い。この人私のこと見えてるのかな。見えてないよね。だからこんなぐいぐい押してくるんだよね!そうだよね!

私の身長はちょっと、ほんのちょっとだけど小さい。

幼馴染の渚くんにも笑われるレベルだ。ちびと言われて怒る私が面白いのか何なのか、渚くんは私をよく小馬鹿にする。小学生の頃とかはほんきで怒ったこともあったけど、最近はもう慣れてしまった。環境適応能力ってすげーな。ほんと人間ってすげー。

そんな事を考えている場合では無かったのだ。潰されてるんだ、私今。
死ぬか生きるかの瀬戸際にいる私に何故こんな事を考える余裕が・・・

「って、あれ?苦しくない。」
「ああ良かった。生きてましたか。」
「竜ヶ崎くん!」

気がつくと、竜ヶ崎くんが私を囲う様にして立っていた。お陰で私の周りには隙間が出来て、さっきまでの苦しさは微塵も感じられない。
っていうかこの図はあれだ。世に言う壁ドンってやつだ。ていうかドアドン?相手がイケメンの竜ヶ崎くんってことも相まって、私は無意識のうちにガッツポーズを取っていた。

「何してるんですか、内海さん。」
「ああすいません。夢の構図だったので嬉しくてつい。」
「全く、君と渚君はよく似ています。」
「そうかなあ。私は渚くんみたいに可愛くないよ。」
「そうですねえ・・・」
「否定してよ。」

すいません、と竜ヶ崎くんは優しく笑った。
自分の背後から差し込む輝きが、竜ヶ崎くんの綺麗な青い髪を彩っていく。
美しい。

「内海さん?着きますよ。」
「あ?ああ…って、あれ?今日は走らないの?」
「…何故それを?」
「渚くんに聞いてたもん。怜ちゃんは毎日ひと駅ぶん走ってるんだよすごいねーって。」
「そうだったんですか。」
「うん…って、ごめん!もしや私の為に!?」
「そ、そんな訳ないじゃないですか!う、自惚れるのも大概にしてください!」

ちょ、何竜ヶ崎くんてイケメンで眼鏡で、プラスでツンデレとかそういう類の人種だった訳か!?何それ何それずるい!やべ惚れそう!

一人で勝手に盛り上がっていたら駅に着いてしまった。ドアが開くとどうじに押し出される様にして私達は電車から降りた。自然と私達は隣どうしで歩きだしていて、これはもしや一緒に登校出来るとかそーいう奴ですか、と期待していたら、そんな欲張りな事を考えていた罰が当たった。

「陸ちゃんっ!!!」

私よりも遥かに可愛らしい声が目の前に立ちふさがった。私の幼馴染が怒気を含んだ顔でこちらをじっと見つめてくる。

「な、渚くん。どうしたの?おはよう。」
「むー・・・。」
「……はあ。一体何なんですか君達は本当に。付き合いきれません、僕は先に行きます。」
「ああっ竜ヶ崎くん!」
「何で残念そうなのさあ陸ちゃん!」

渚くんががばっと私に抱きついてくる。くそうあざと可愛い。しかし夢の少女漫画的展開がっ・・・

「・・・見てたよ。」
「え?」
「陸ちゃんが怜ちゃんに助けてもらってるトコ。」
「え、ああそうだったんだ。格好よかったよねーさすが竜ヶ崎くん美しい!」
「駄目駄目駄目!もう助けられちゃだめなんだからーっ!特に怜ちゃん、まこちゃん。はるちゃんは絶対に駄目!皆格好よすぎるんだからっ!」
「意味が分からないよ渚くん…!」

渚くんを見れば、目に涙を一杯に溜めて潤ませている。あまり変わらない身長の私達の間を、風が通りぬけては潮の香りに包まれた。
渚くんは私の方を掴んで、はあとため息を漏らした。一度下げられた眉毛を今度はきりっと釣り上げて、私の視界を奪っていく。

誰もいなくなったホームは、静寂に包まれる。

「僕だって、陸ちゃんくらい助けてあげられるんだから。」
「え?」
「だから!あんなの絶対にだめ。すっごい悔しかった!」

陸ちゃんを見る優しい表情の怜ちゃん
怜ちゃんを見る嬉しそうな表情の陸ちゃん
奪いに行きたくて、行きたくて、行きたくて。

「僕以外の前で、あんな顔しちゃ嫌だよ・・・。」

声は少し、掠れてしまった。





怜ちゃんは陸ちゃんと渚くんの仲をとりもつ役だったら超可愛いなと思います。


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