その笑顔は反則だから
※ちょっとマコちゃんが暗い
君は言った
「マコちゃんの笑顔って、お日様みたい!」
この言葉が僕にとってどれだけ嬉しかったか、分かるかい?
「マコちゃんおはよー。」
朝7:30
いつもの様に彼女を迎えに行くと、いつもの様に瞼をこすりながら目の前のドアは開かれた。
「おはよ、陸。朝ごはんは?」
「んー。まだ・・・」
「そっか。じゃあハルと一緒に食べな。」
うたた寝しながら付けたのであろうリボンは曲がっていて、俺は当然の様に陸の胸元へと手を伸ばしそれを直す。
彼女は意識する様子など微塵もせず、笑うんだ。
「ありがと、マコちゃん。」
さて、次はハルを迎えに行く番だ。
まだ眠たそうにほてほて歩く陸が階段に蹴躓かない様に、俺は右手を差し出した。陸の俺より一回りも二回りも小さいそれがごく自然に重ねられる。
あ、まただ
最近発症した俺の病気。ちくりと胸が痛んで、どうしようもなく悲しい気持ちに襲われる。
陸といれるこの時間は小さい頃から大好きだった。
その頃から陸は朝寝坊で、毎日俺は彼女を迎えにこの階段を駆け上がった。
中学の頃からだ。
ただ純粋に好きだったこの時間が、愛おしく感じる様になった。
ハルの家に着かなければいい。このまま時間が止まればいい。陸がハルの家に行って、顔を赤く染めながら"おはよう"なんて言わなければいい。ハルはそんな彼女を嬉しそうな顔で見なければいい。
自分のこの黒い感情が、自分を嫌いにさせた。
脳裏に蘇るのは陸の言葉。
――――――マコちゃんの笑顔って、お日様みたい!
「―――っ」
笑えないんだ。君とハルが喋っている所をみると。
笑えないんだ。君がハルに笑いかけている所をみると。
笑えないんだ。
どうしようもなく、すきだから。
「マコちゃん?」
「あ、ごめんぼーっとしてたや。行こうか。」
「うん。あのね?」
「?」
陸が俺の一段下の階段に立って、こちらを見上げている。
中々切り出さない彼女に、俺はなあにと問いかける。
すると陸は一瞬ためらった後、自身のほっぺをぎゅにいとひっぱりあげて俺の目の前にぐいと近づいてきた。
「・・・え?」
「おもひおい?」
「え?」
「・・・も、もう、いい・・・。」
望んでいた反応とは違った様で、陸は顔を真っ赤に染めてそっぽを向いてしまった。俺は慌てて彼女の腕を引く。
「ご、ごめん。え、ええ?何どうしたの?」
「・・・マコちゃんが最近笑ってなかったから・・・」
「え?」
「笑って欲しかったの!」
いーっと口を思いっきり横に広げて歯を見せる陸。
予想もしていなかった言葉に、思わず口が開く。お腹の底から嬉しさとか面白さとか、明るくてキラキラした何かが込み上げてきて、あんなに難しかったことなのに、それを吐き出すのは簡単だった。
「ふっ、あははっ!」
「お」
「あははははは、何だ、そんなことだったの」
「そ、そんなことって・・・!」
心配してくれたの、僕なんかを。
目の前の、まだ赤が引かない陸がふわりと笑った。
「やっぱり」
マコちゃんの笑顔って、お日様みたい!
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