旅人は暗晦の路を歩く
がらんとした病室に足を踏み入れる。
昨日までオレは毎日の様にここに通っていたのに。
彼女に会う為に。
昨日まで彼女が眠っていたベッドに腰掛ける。
『エド、今日は何のお花を持って来てくれたの?』
窓の外には、真っ青な青が広がっている。
『今日はお天気がいいんだね。ねえ中庭に出ない?』
「As your bright and tiny spark...Lights the traveller...in the....dark....」
彼女がよく歌っていた歌を口ずさんでみる。自分でもびっくりする位に音痴で、リズムも滅茶苦茶だった。
Twinkle, twinkle, little star.
How I wonder what you are.
「やっぱ、お前じゃなきゃ駄目だな・・・・・名前。」
オレは名前の願い通りにずっと彼女の傍にいて、手を握っていた。
名前が息を引き取った後も、オレはその手を離す事が出来なかった。
彼女の最期はとても静かで、とても穏やかだったから。
もしかしたら目を覚ますんじゃないかって、もしかしたら何もかもが悪い夢で、名前が病気だっていうのも全部、夢でなんじゃないかって。
そんな風に錯覚させてしまうほど、彼女が安らかに眠っていたから。
「結局、」
雪だるまを作ってやることも叶わなかった。
来年の収穫祭に、また二人でいく事も。
名前、お前は本当に幸せだったか?
生きている内、何度も幸せだと言ってくれた。
でもそれは、本当に、嘘偽り無かったのだろうか。
あの笑顔も、本当に?
でも、彼女は嘘が付けない筈なんだ、本当に?
そればかりが気になった。
それでも、今やそれを確かめる術なんて何処にもない。
名前は、死んだんだ。
ふわふわとした感覚の中で、どうにもその言葉だけは上手く理解出来ずにいた。
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