青春のかけ橋

 青春のかけ橋、というフレーズの入った曲を聞いた覚えがある。
 何となく聞き流しそうなそれを、その時の俺は真剣に考えていた。橋は渡すもので、一体どこからどこへ、何を渡すのだろう。橋の始まりが青春?橋の終わりが青春?それとも…
「乾先輩」
「うん…」
「好きッス」
「うん…ん?んんーっ!?」
 俺は陸橋から目を離し、隣にいる海堂の顔を凝視した。
 部活が終わった後、海堂がいつも自主練をしている河原で、彼の誕生日を祝ってプレゼントを渡した。
 何にしようか散々迷って考えたけど思いつかず、結局、去年の誕生日から今年の誕生日までの筋力やフォームなどの成長記録と、また今後の筋トレによってどれだけ伸びる余地があるかなどのデータ予測を事細かに書いた『(秘)海堂ノート』を作った。
 それを渡した瞬間、海堂の顔が明らかに凍りついた。まあ想定の範囲内だ。
その場でノートを破られる、叩き付け返される、踏みにじられる…など、あらゆる事態を予想して、予備の誕生日プレゼントとして可愛いニャンコ柄のバンダナもちゃんと用意してあった。
 しかし海堂は「コレ、ちょっと中を見ていいッスか?」と俺に聞くと、堤防の坂になっている草むらに座って、ノートをめくり始めた。
 海堂の想定の範囲外の行動に戸惑ったが、俺は真剣にノートを見る海堂の横に腰を下ろして、それから目の前を流れる川や、近くの橋を渡る人や自転車や車、ますます紅くなっていく太陽と町並みを、ぼんやりと見ていた。

 そして、開いたノートに視線を落とした海堂からの、突然の告白。

「こんなに、俺のこと見ててくれたんスね」
「あ、うん。見てた、けどな、それは…」
「正直、気持ち悪っ!と思いましたけど、でも俺の誕生日にわざわざ準備して作ってくれた物なんで、意を決して読んだんスけど…」
「気持ち悪いかーそうだよねー気持ち悪いよねー」
「読んだら読んだで、事細かに俺の事が書いてあるからますます気持ち悪かったというか…なんでオマケページで、俺が小学の卒業文集に綴った好きな言葉が書いてあるのかとか…」
「それは、前に海堂の家に行った時に、お母さんが見せてくれたんだよ!」
「オマケのオマケのページが更に酷くて、俺の部屋の間取りとか、休日で家族と過ごしている様子を漫画にするとか…寒気が…」
「まあ、それは、とあるツテからの情報で、俺が調べたわけじゃないからな!ちゃんと著作権についてページの下に書いてあるだろう!?」
「どんだけ俺の事を知ってんだよ!と思ったけど…つまり、それだけ乾先輩が俺の事を知りたかった結果ッスよねコレって…」
 海堂はそう言うと、穏やかというか諦めがついたというか、とても静かな目でノートを見つめて、それを閉じた。
 そして夕陽に染まった真っ赤な顔を上げて、俺に微笑んだ。
「なら、はっきり言えます。こんなに俺のこと見てくれている乾先輩が、俺も好きッス」
 これは夢なのか?
 現実なのか?
 海堂からというか後輩からというか男からというか、ともかく初めて人に「好き」と言われる事が、こんなにも思考回路がショート寸前並に衝撃的な事だと、俺はその時、初めて体験した。
「乾先輩、顔真っ赤ッスよ」
「か、か、海堂こしょ!」
 カミカミでしかも裏返ってしまった声に、海堂は声をたてて笑った。何だかよくわからないけど、俺も胸の奥から沸き上がるくすぐったい感情と共に、大きな声で笑った。
 夕陽が川の向こうに沈んで、薄暗くなり始めたので、俺たちは草むらから立ち上がって、帰ることにした。
 堤防を歩き、陸橋を渡っている途中で、さっきまで考えていた『青春のかけ橋』を思い出したので、海堂に質問してみた。
「『青春のかけ橋』の『青春』は、『かけ橋』のどこにあると海堂は思う?橋の始まり?橋の終わり?」
「そうッスね…」
 海堂は少し考えた素振りをして、それからさりげなく俺の手に指を絡めた。
「ココ、じゃないッスか?」


【end】

男前な海堂も素敵です!


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -