REOPALACE in Sasebo

 俺は人材派遣会社の社員だった。
 ある年の夏、俺はIT関連企業の要請で、長崎県へ派遣された。
 俺は一ヶ月の契約で、レオパレスからワンルームのマンスリーマンションを借りた。
 するとその部屋に、海堂薫が付いてきた。
「お構いなく」
 海堂薫は部屋に備え付きのソファに座って、じっと俺を見上げてきた。

 次の日の夜。

 俺が仕事から帰ってくると、海堂薫がソファの上でぐったりしていた。
 どうしたのかと尋ねると、お腹が空いていると彼は弱々しく答えた。昨日から水以外、何も口にしていないらしい。
 冷蔵庫の中には何も入っていなかったので、俺は近くのスーパーまで買い物へ行った。
袋いっぱいの食材の中から2.5人分の夕飯を作って、海堂薫と一緒に食べた。
 ご飯が食べ終わると、彼は俺に頭を下げて「おいしかったです。ごちそうさまでした」と言った。なんか良い気分になった俺は、鼻歌を歌いながら2人分の食器を洗った。

 俺はシャワーを浴びた後、備え付けの机に座って、持って帰ってきた仕事の資料や機械のマニュアルに目を通していった。その間、海堂薫は物音一つ立てず、時々体勢を変えながらソファの上にずっといた。

 午前1時過ぎ。
 欠伸をしながらソファを見ると、海堂薫は胎児のように体を丸めて寝ていた。
 俺は自分のベッドから毛布を一枚取って、彼に掛けた。それから電気を消して、ベッドに入って寝た。

 海堂薫がソファから離れた所を、俺は見たことがなかった。
 トイレと風呂は、俺が仕事に行っている間や寝ている時に済ませているようだった。

 当初の予測では、レオパレスにいる間は外食やコンビニ食を中心とした食生活になると思っていたが、海堂薫のいたおかげで、昼以外は自炊することになった。海堂薫は俺の部屋から出る事ができないため、電話で頼めるデリバリー以外の物を食べる機会がなかった事と、時間がかかることを除けば、俺は自炊が好きだったからだ。
 それに、ご飯を食べる前に頭を下げて「いただきます」と言い、食べ終わった後は俺を見て「ごちそうさまでした」という言う海堂薫を、俺は結構気に入っていた。

 一日中部屋のソファの上にいる海堂薫が退屈しないように、俺は会社の近くにあったレンタルビデオ屋のVIP会員になり、毎日仕事帰りに3本ほどDVDを借りていった。
 海堂薫はホラー物はあまり好きではないらしく、人が殺されそうになるとぎゅっと目を瞑った。またヒューマンドラマや動物物は好きらしく、目を真っ赤にしながらじっと見ていた。俺は彼のその目が好きだった。

 派遣社員とはいえ、1日仕事の量はかなり多いものだった。髪の毛の後退した中年上司に『バリバリ働くねえ!』という言葉に殺意を覚えるくらい。今まで何をしていたんだアンタは?
 そんなわけで、特にどろどろに疲れ果てた日は自分のベッドまで行く気力も無く、入り口に近い海堂薫のソファに倒れて寝てしまうことがあった。
 すると海堂薫は自分の毛布を俺に掛けて、俺の眼鏡をテーブルの上に置き、真夜中に俺が目を覚ますまでひざ枕をしてくれた。
 俺は、自分の借りた部屋に海堂薫を付けたレオパレスに、心底感謝した。

 レオパレスに入って半月。

 ちょうど休暇だったその日の昼、当時の恋人だった不二が、東京からわざわざ遊びにやって来た。

 不二は部屋のソファの上の海堂薫を見て驚き、当然だが、恋人の俺を猛烈に怒った。
 俺は海堂薫について詳しく説明をして(俺が海堂薫を選んだわけではない、海堂薫が俺の部屋に付いていたんだ、というくらいだけど)、どうにか不二に納得させようとした。

 2時間の説得後。
 ようやく不二は、海堂薫がこの部屋の備え付けである事に納得してくれた。だがそれでも海堂薫のことは気にくわないらしく、不二は彼に威嚇して遊んだ。

 不二の希望で、俺たちは海堂薫を部屋に残して長崎観光へ出かけた。有田焼を観賞したり、ハウステンボスの中の美術館や博物館をだらだら見たり。
 ヨーロッパ風の施設を気に入った不二が、ホテルをとって宿泊しようと俺を誘った。だが俺は明日も仕事があるし、それに部屋には腹を空かせた海堂薫がいるので、帰ろうと不二に言った。
 そのせいか、帰りの車の中でも、俺の部屋に帰ってきてからも、不二は面白くないといった表情を崩さなかった。
 3人で俺の作った夕飯を食べて、俺と不二が風呂に入り終わり終わった後。
 今日借りてきたDVDを3人並んで見ていた時、突然不二が俺に抱きついてキスをしてきた。
「せっかく来てあげたのに。君は何もしないで、僕を東京に帰す気なの?」
 セックスをしよう、と不二は言い出した。
 ワンルームの部屋なのに、どこでしようというんだ?と俺は不二に言った。
「いいじゃない、海堂薫の見ている前でも」
 人が見られながらするのは、興奮するよ?と不二は笑って言い返した。
 そうかもしれない、と思った俺はキスをしたまま不二を抱き上げて、自分のベッドに移動した。そして海堂薫の前で、不二とセックスを始めた。
 俺は海堂薫に自分の裸を見られていることや、不二と繋がっている姿を見られることに、ひどく興奮して、その興奮を全て不二の中に吐き出した。
 俺たちが激しく交わっている間、海堂薫はソファの上で膝を抱えて、じっと俺の借りてきたDVDを見ていた。

 次の日の朝。

 俺と不二は一緒に部屋を出た。
 空港まで見送りに行くと俺は申し出たが、しっかり仕事に行きなさいと笑顔で断わられた。

 その日の夜。
 俺が部屋に帰ると海堂薫はソファの上で寝ていた。
 可愛い寝顔だ、とまぶたにかかった前髪を梳くと、海堂薫は目を覚ました。
 彼は俺を確認すると、顔を真っ赤にして身を縮めた。そして「触るな」と唸った。
 俺は警告された通り、彼から手を離した。

 その後の夕飯。
 海堂薫は一言も発せず黙って食べた。俺もとくに話さなかった。
 食事の後片付けをして、風呂に入って、ソファに座って、俺は冷蔵庫のビールを1缶空けた。
 隣にいる海堂薫はまだ機嫌が悪く、拗ねた子供のようにずっと膝を抱えていた。
 俺はニュースしかやってないテレビを消して、海堂薫に向き合った。
「どうしてそんなに怒ってるの?」
「別に。怒ってねえ」
「昨日、君の前でセックスした事が気に食わないの?」
「違う」
「ならどうして?」
 顔を背ける海堂薫の頬を撫でた。
 ビクッと身体を震わせ、海堂薫はきつく目を閉じた。
 指で愛らしい耳をなぞると、たちまち真っ赤に染まった。

 なるほど。そうだったのか。
 海堂薫は、俺を好きだったのだ。
 俺はやっとその事に気付いてあげられた。

「頼むから、機嫌を直してくれ、薫」
 俺も海堂薫が好きだった。
 だがその感情は、性交や恋愛の対象としての好きではなかった。自分の家族やペットに抱くような愛しさ。恋人の不二に対するよりも、純粋な愛情だった。
 だから俺は、海堂薫の心を傷つけたことに罪悪感を覚えて、許しを乞うように彼を抱きしめた。
 海堂薫は縋りつく俺を拒まなかった。
 彼は俺を許してくれたのだ。


 その日以降、俺は海堂薫を抱きしめながら、狭いソファの上で一緒に眠った。





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