小説 | ナノ


  山道の迷路(没ネタ)


 そこまで思い返して、俺は思考を断ち切った。どうも外がざわついている。

――来客か。

 どうにも今は誰とも会いたくない気分だったが、こう謹慎中じゃ拒むこともできない。逃げるには窓は小さかったので、仕方なく体を起こして適当に椅子に座った。

「よぉ。珍しいな。お前から俺を訪ねるなんて」

 部屋に入ってきたのは、眉間にしわを寄せた白龍だった。訪問してきた割には、敵意を存分に感じる視線を俺に向けてきている。手にした槍をどこに置く訳でもなく、手にしたまま勧めた席にも座らず、白龍は要件を切り出してきた。

「久しぶりに戻ったら、良くないウワサを聞いたもので」
「ウワサ……なぁ。いつの話だかなあ」
「いつぞやかに誰かが他国で我が軍の迷宮生物を使用してくれたおかげで、我が国の風評が悪くなったものでしてね。その経緯をお聞かせ願いたい」

「なんでだよ」

「今度俺が交渉に行く地域がその近くです。向こうに説明を求められた時、俺が状況説明で遅れを取る訳にはいかない。事の発端となった神官殿には、迷宮生物による街の被害と、なぜアレらを使ったのかお聞かせ願いたい」
「アイツらが何壊したかなんて、知らねーよ。んなこと、諜報にでも聞きゃすぐわかることだろ」

「まぁ、後半の質問になら答えてやるよ。アイツらは足止めに使った。俺の用事が終わるまでのな」
「足止め?」
「ああ。相手の連れにファナリスがいてな。そいつを足止めしていた」

 白龍の表情が変わっていく。僅かに目を見開いているのは俺の言葉の意味を理解している、証拠だろう。
 口元が自然とつり上がるのがわかった。

「そういやお前と紅玉は、あいつらにあったことがあったんだってな」

 わかりやすく言えば、白龍の視線に険呑とした色が混じる。

「彼らに……何をしたんですか」
「大したことはしてねえよ。アリババって女をちょっと慰み者にしただけだ」
「っ!?」
「抱き心地は最高だったぜ。娼婦やってんなら行きつけにしちまいたいくらい良かったなぁ」

 コレは本当だ。薬の効果がそれなりにあったんだろうが、それでもあいつの抱き心地は良かった。肌は滑らかで吸いつくようで、一度抱いたらその身体の熱さは忘れられないだろう。

「神官殿っ! ……本当に、そのようなことを?」
「嘘をつく必要がどこにある? そんなに疑うならあいつらに会って直接聞いてみたらどうだ?」

 詰めた息を静かに吐き出して、白龍は静かに言葉を紡いだ。

「なぜ、そのようなことを」
「欲しいもんを手にいれるのは当然だろ? お前も見りゃわかるだろーけどよ、アリババの泣き顔とかそそられるぜ」

 視界の端で白龍の手に力がこもるのが見えた。立ち場さえなければ、もしくは理性がなければ、こいつは間違いなく槍を振るっていただろう。

――どうして怒りに震える?

「――やはり俺は神官殿が嫌いです。聞きたいことは聞けたので失礼します。聞きたくもなかったことですが」

 視線に混じる強い怒り。けれども、形だけはしっかりと礼をし、白龍はすぐにきびすを返して部屋を出ようとする。
 その背中に声を投げかけたのは、単純な好奇心だ。

「なぁ」





「お前もあの女が欲しいのか?」

 その質問に白龍は振り向かず、無言で部屋を出ていった。

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