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  山道の迷路2



 何かがおかしいと思ったのは、アリババ君達と合流してからしばらく経った後だった。
 僕達の度は会って別れてを何度も繰り返してきた。今回もそうだ。僕らはみんなバラバラに別れて、アリババ君とモルさんは一足先に合流していて、その後に僕も加わった。
 今度はどこに行こうか。楽しみだね。と話をしながら、アリババ君の雰囲気がどこか変わっていたことに気付いた。どこがどうって言われると困るんだけど、少し大人びたような感じがしたんだ。モルさんも別れる前と少しだけ違うように感じた。
 それに心なしか、二人の間には緊張したような、ぎくしゃくした空気が流れることもあった。だから、僕はアリババ君に聞いたんだ。

「どうしたの?」

 って。モルさんと時々気まずそうだけれど、何かあったの? って続けて僕は聞いた。
 僕はモルさんがアリババ君に恋をしていることに気付いていた。それこそ、シンドリアにいる頃からモルさんの目はずっとアリババ君を追っていたんだから、気付かない方がどうかしているって思う。思われている本人は全く気付いていなかったみたいだけれど。
 モルさんは自分の気持ちを押し殺してしまう人だから、僕が見ている限りアリババ君に告白しようとはしなかった。僕がいない間にその関係が進展したなら、ちょっとさびしいけど僕は二人を祝福してあげたい。

「もし僕のことを気にしているんだったら、そんなのいいのに。遠慮はいらないよ」

 気にしなくても良いんだよって言うと、アリババ君は曖昧に笑ってごまかした。なんだろう。すごくモヤモヤする。僕の思い違いだったんだろうか。

「ねぇ、アリババ君」

 前のめりになってアリババ君の腕を掴んだ。瞬間、彼女がビクリと体を震わせたものだから、僕は驚いて手を離した。その時走ったのは、怯えの色だった。

「ご、ごめん」

 謝りながらアリババ君の顔色をうかがうと、彼女も焦りながら僕に謝ってきた。そこにはさっき見た怯えの色はもうなかった。





 モルさんにも同じことを聞こうとしてやめた。
 アリババ君のあの様子は確かに何かあった証拠だ。それもあまりよくないことの――。
 聞けば原因はわかるのかもしれない。けれども、聞いてしまえば後戻りはできない。二人はケンカしている様子じゃないし、モルさんは相変わらずアリババ君のことが好き見たいだ。悪いことが本当に起きたのか、と問われれば、傍から見る限りではそう見えない。

 何が原因でこじれてしまったんだろう。ただ一つわかることは、僕には二人のこじれを直すことが難しいことだけだった。





――どうして、君が。

 目の錯覚かと思った。だって、あの堕転したマギがそんな感情をアリババ君に向けるなんて信じられなかったから。
 何もせずに帰った彼の背を見送りながら、僕は手にしていた杖を強く握っていた。振り返れば談笑しているアリババ君とモルさんが遠くに見える。
 僕が二人に感じていた違和感と、目の当たりにした見たことのないジュダル君の様子。
 カチリと音がして、結びついたような気がした。



 それからしばらくしてだった。
 僕は二人と別れて、一人だけ先に目的地に行くことを提案した。アリババ君もモルさんも驚いていた。僕がアリババ君達に合流したのはちょっと前だったし、僕達の今回の旅はそんなに急ぐものじゃないから、一人先に行く必要もなかったから。僕は先に行かなきゃいけない用事があるってことにしておいた。

――悔しいけど、僕じゃ駄目なんだ。

 二人の間を取り持つことも、直すことも。多分、二人にしかできない。それにジュダル君のことも、きっと僕には解決できない。

 アリババ君ならきっと大丈夫。すぐに元気になって、前みたいに笑ってくれるって、僕は信じているんだ。

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